まずは一連の流れを把握しよう!
まず最初に開業までのおおまかな流れを解説しますので。全体像をつかんでください。
事前準備
1 コンセプトを考え、競合となりそうなお店を調査しておく
まず飲食店はオフィスと違って、まさに対消費者に対する直接の商売ですから、その店の特徴、あるいはコンセプト、あるいは開業の考え方を自分なりに固めておくことが重要です。その内容は大まかに言って以下の通りですから、それぞれに対して自分の答えを用意しますしょう。
- 出店エリアはどこか
- 何のジャンルの飲食店か
- 主な客層は誰か
- 営業時間と定休日はどうするのか。ランチは営業するのか。
- 自店舗を利用する顧客は何を求めているのか
- ゆっくりくつろげる店か、とにかく空腹を満たしたらすぐに帰る店か
- メニューの中心の価格帯や、1人の顧客の平均の支払額はいくらくらいか。
(またこれを考えるにあたり、自分が参考にしたいような人気店について、上記と同様の点、および以下の点を自分でその店に行って調査、整理し、真似できる点、真似をしないで自店舗の特徴を出して競争できる点を考える。) - 店内の雰囲気はどうか。落ち着いているか、カジュアルか。
- 従業員の接客態度はどうか。フレンドリーか、丁寧か。
- メニューは何種類あるか。いくらくらいの価格帯か
- 注文してから料理が出てくるまで何分かかるか
- 料理はおいしいか。それほどでもないか。
意外にこの項目に沿って細かく見ていくと、料理はおいしくないが雰囲気で人気になっている、などのことがわかって、自店舗はどこで差を付けたらよいのか作戦が立てられます。しっかりリサーチしましょう。
2 物件を探す
以上のコンセプトや考え方が自分の中で整理できたらそれにふさわしい店舗物件を探しましょう。探し方はいろいろありますが、最終的に飲食店が流行るかどうかのポイントの何割かはその立地が占めています。なので、以下の項目に合致するような好立地を探しましょう。
- 店舗周辺に住んでいる人、勤めている人が多い
- 最寄りの駅やバス停があり、乗降者数が多い
- 目の前の通りは人通りが多い
- 建物の1階で道路に面した路面店であること
- 袖看板などを付けることができて、遠くからでもすぐに店舗の存在を見つけてもらえる
- 近くに大型商業施設、大学、観光地、オフィス街、大きな工場など、多くの人が集まる場所がある
- 競合するような飲食店、弁当屋、コンビニが近くになく、食事をするなら自店舗を選ぶ可能性が高い
3 事業計画書の作成
そして物件が決まったら、家賃も決定しますからそれをもとに、事業計画を作成しましょう。出店の費用を全額自己資金で賄えるのであればこの項目は不要ですが、しかし自己資金では足りず、銀行などから融資を受ける場合、この事業計画書の提出は必須です。なおかつその内容によって融資の審査が行われ、内容に納得性がないと融資が通らないこともあります。ですから、納得性があり、かつ成功し、利益が毎月出るような事業計画を立てましょう。
事業計画書の根本は売上予測です。それを計算するには以下の式を用います。
売上 = 座席数×埋まる席の割合(満席率)×満席状態が何回起こるか(回転率)×客単価
これをランチタイムとディナータイムで計算します。 またこの売上予測は融資を受ける場合は必須ですが、受けない場合も計算しておいた方がよいでしょう。作っておけば、本番の営業の時に予定よりも集客できているのか、予定に満たないのかがすぐにわかります。
さらにその売上に対する経費を計算します。
経費は主に
- 平均の原価、仕入れ代金(売上に平均の原価率をかける)
- 物件の賃借料
- 水道光熱費
- 従業員給料
- 什器備品費
- クレジット手数料
- 販売促進、宣伝費、メニュー作成費
- 融資資金の利息
などです。
この売上と経費の両方を計算すると
売上 - 経費 = 利益 が計算できます。
この利益の内訳は
自分の生活費 + もしもの時、将来のための貯蓄 です。
事業計画には以上の数字を月別に計算して表にします。
3 必要資金の確認
月々の利益がわかると、次には開業時にどれだけの資金が必要かがわかります。
その内訳は、
- 物件を賃借するための敷金、礼金など
- 内装、外装工事費 ・調理機器代
- 什器備品(椅子、テーブル、調理備品)代
- 折り込みチラシなどのオープン時販促代
- 売上が予定通りいかない場合の予備の資金
などです。
特に「売上が予定通りいかない場合の予備の資金」は、売上が予定の半分しかいかない場合、どれだけ赤字になるかを計算し、その赤字の6か月分を用意します。
開業に向けた行動
4 資金調達
必要な資金がわかったら、自己資金で賄えない部分を銀行に行って融資を受けましょう。その際には先の事業計画書を携えていって、自店舗の特徴、顧客が自店舗を選ぶ理由、売上と利益予測などを説明する必要があります。 また銀行に融資を受けない場合は、親せきや知人から借りることになるかもしれません。その際にはいくら親しくても、金銭消費貸借契約書を作成し、後々トラブルにならないようにしましょう
6 メニュー開発
先ほどのコンセプト作りで、だいたいくらくらいの価格帯でどのような料理にするか、ということが決まっているでしょうから、その方針に沿ってメニューを具体的に決めていきます。
その時に考える必要があるのは
- どのメニューを名物料理にして集客の目玉にするのか
- ほかのメニューの利益をどこまで取って、全体で利益を出すのか
目玉料理は極論すれば赤字でもかまいません。そのように消費者にとって非常にお得なメニューがあれば大きく集客できることが期待できます。その代りすべての料理をそのような考え方にしてしまうと、店は当然やっていけませんから、目玉料理で集客した顧客が、目玉料理以外に頼む料理によって、いくら店に利益をもたらしてくれるのか、という計算をしましょう。
そのメリハリをいかにつけるかが、流行る店とそうではない店の違いになります。またその料理内容に合わせて、使う食材、その結果かかる原価、それをベースにした代金を設定することになります。目玉料理以外の場合は、その平均の原価率はどの店でも最高で30%程度ですので、まず競合と競争できる提供価格決め、使う材料はその代金に原価率をかけて、その金額内で収まるように設計しましょう。
またその際に食材ロスも考えておく必要があります。例えばオーダーミスがあった場合その料理は廃棄するしかありませんし、あるいは食材もすべてが料理に使えるわけではなく、使えない部分は廃棄することになります。その割合は、売上の2%程度が平均なので、それも経費に入れて、全体で利益が出るように考えましょう。
物件が決まったら
7 賃借契約を結ぶ
物件を決めていたら、そのオーナーと不動産屋を仲介させて契約を結びます。その際に焦りは禁物です。物件は1度決めると簡単には変えられません。メニューなどは、うまくいかなければ翌日からの変更も可能ですが、物件はそうはいきません。ですから、自分でいいと思った物件でも即決しないで、じっくりと、その家賃は相場と比較して妥当か、集客力はあるか、家賃は利益を圧迫しないか、などを検討したうえで決定しましょう。 もしもそれでよい物件を先にほかの人に決められてしまっても、縁がなかったと考える余裕が必要です。
8 内装や外装の検討、施工
契約の締結と並行して、物件の図面を見ながら店舗レイアウトを決めます。これも一旦作ってしまうと、それを直すには再度工事が必要になるので、自分のキッチン内に通路や作業スペースが十分にあるか、食材の搬入から調理済料理の搬出まで無理なくできるか、などの作業動線、ホールでのスタッフの動線、顧客の入店、トイレ、退店の動線を考えて、効率的に運用できるようなレイアウトを考えましょう。
またエアコンの位置も重要です。キッチンスタッフが夏場でも快適に調理ができ、同時にホールの席でも快適に顧客が過ごせるような位置にエアコンの吹き出し口が来るようにしましょう。 そのうえで、そのレイアウトに沿った内装工事、そして外装工事を内装業者や外装業者に相談します。
その内外装は、まさに自分の夢の実現ですから凝りたくなる気持ちはわかりますが、凝れば凝るほど初期費用が掛かりますから、適度なところでの妥協も必要です。
8 各種届出、手続き
飲食店を開業する場合、保健所、消防署などの公共機関への届け出が必要です。これがオフィスのオープンと決定的に違う部分です。具体的には最低でも以下の2つは必要なので、開業に間に合うように手続きを済ませましょう。1つは保健所に提出する「飲食店営業許可」です。これは店舗が完成する10日前までに行う必要があります。必要書類は、申請書、店内レイアウト図、食品衛生責任者の資格証明書、申請料などです。
2つ目は「防火管理者選任届」です。ただしこれは収容人数が30人を超える店舗のみです。この2つがどのような飲食店を開業する場合でも必要な届け出ですが、ほかにも業態によって必要なものがあります。
1つは調理をする上で火を使用する場合の届け出で「火を使用する設備等の設置届」です。カフェやIHで調理をする飲食店の場合は不要ですが、1つのキッチンで使用する設備の入力の合計が350キロワット以上ある場合は届け出が必要です。自店舗の厨房機器がこれに該当するかどうかは、厨房設備を導入した業者に確認しましょう。
2つ目は、飲食店に限ったことではありませんが、従業員のための「労災保険の加入手続き」です。これは相手がアルバイトであっても加入する必要があります。雇用した日の翌日から10日以内に、労働基準監督署に届け出ますしょう。また同じく、「雇用保険の加入手続き」も、その従業員が、「1週間の労働時間として20時間以上ある」「31日以上継続して雇用する」という場合は行う必要があります。
3つ目は、深夜12時以降に営業して、酒類を提供する場合に必要な届け出で、「深夜酒類提供飲食店営業開始届出書」といいます。これは管轄の警察署に営業開始の10日前までに届け出ます。昼間に酒類を出すだけであれば届け出は不要です。
4つ目は店内で料理を提供するだけではなく、ケーキやパンのテイクアウトも行う場合、「菓子製造業許可」が必要です。
5つ目は飲食店に限ったことではありませんが、確定申告をする上で必要な届け出が「個人事業の開廃業等届出書」です。これは管轄の税務署に提出します。
9 スタッフ募集
店舗の内装工事と並行して従業員の募集も行います。基本は求人サイトなどですが、1週間の掲載で数万円かかるので、お金をここでかけないのであれば、知り合いに声をかけたり、工事をしている店舗の外に求人広告を貼りだしましょう。
11 告知、宣伝
そしてオープン日が決まったら、その内容をより多くの人に知ってもらいます。飲食店に関しては地域の関心も高いので、できればオープン時だけは、新聞の折り込みチラシなどを実施するのがおすすめです。費用的には印刷代でチラシ1枚5円程度、折り込み代が1枚5円程度で、合計1枚10円の予算になります。
近隣だけにまくのであれば、5000枚も撒けば十分ですから、費用的には5万円程度です。 その費用がもったいなくて実施しない場合は、せめて工事をしている店舗の外に、何の飲食店が、いつオープンするのか、ということを貼りだしましょう。通行する人が必ず見ていくはずです。
12 プレオープンとグランドオープン
そしてオープンは2回に分けて行います。1回目は、招待客を呼んで代金をいただかずに料理を提供するプレオープンです。ここで、キッチンやホールのオペレーションが滞りなく本番でもできるかどうかを確かめます。 そしてそこで問題がなかった場合、あるいは問題があった場合はそれをクリアしたうえで、グランドオープンを行います。
これは通常通り代金をいただくいわゆる「開店」です。ただし、この時は売上と利益を追求するのではなく、将来の常連客を作る目的で行いましょう。ですから、記念品を付けたり、サービスデザートを付けて、自店舗に対する好感度をアップさせることが重要です。 以上が、飲食店を出そうと考えてから、晴れてオープンするまでのプロセスです。
必要な資格、手続き一覧
上で少し触れましたが、飲食店の開業には各種の届け出が必要です。そしてそれに伴って、店主または従業員の誰かが飲食店を出してもよい資格を持っていることも必要になります。その資格は以下の通りです。
食品衛生管理者
食品衛生管理者は、飲食店1軒に1人は絶対に取得しているいる人がいなければならない資格です。その役割は食品衛生上の管理運営に当たる、ということです。ただしその資格所有者は経営者や店長ではなくても、従業員が持っているだけでもOKです。営業許可と一緒にこの資格を持っている人間がいるという証明書を保健所に提出する必要があります。 この資格の取得方法は、飲食店の都道府県が開催している丸1日の講習会を受講するだけです。特に卒業試験もありません。受講料は1万円程度です。すでに調理師や栄養士などの免許を持っている人はこの資格は持っているとみなされるので、改めての資格取得は不要です。
防火管理者
防火管理者はすべての飲食店で必要なわけではありません。その飲食店の席数が30席以上の場合だけです。 この資格を取得するには、管轄の消防署で開催する最長2日間の講習会に参加するだけです。受講料は3000円~5000円です。
調理師免許は不要
よく勘違いする部分ですが、飲食店を開業するうえで調理師免許は必須ではありません。もちろん持っているに越したことはありませんが、なくても開業できます。
失敗しないために
以上が飲食店を開業するための簡単な全貌です。これさえきちんとステップを追って行えば、だれでも飲食店が開業できるというわけです。しかしビジネスは開業するだけでは意味がなく、成功しなければなりません。大きな成功はしなくても少なくとも失敗は避けたいところです。そのためには以下のポイントに注意しましょう。
運転資金は余裕をもって
実は多くの飲食店は開業して1年以内に廃業しています。その理由のほとんどは運転資金のショートです。ですからその二の舞にならないように、運転資金は最低3か月、できれば6か月分の余裕をもって用意しましょう。
オープン3か月は余裕のあるオペレーション体制で
すぐにでも利益を出したいと考えると、どうしてもシフトインさせるスタッフを少なめにしたり、仕入れを少なめにしたりしがちですが、勝手がわかるオープン後3ヶ月までは、人員的にも食材的にも余裕をもっておきましょう。特にこの時期はオープン景気で多くの来店客が見込めますが、それは物珍しいから来ているだけで、ビジネスが成功するかどうかはそのうち何人を常連客にできるかにかかっています。
ですからそのためには来店客に満足してもらう必要があります。にもかかわらず、人員を絞って料理提供が遅くなったり、ホールでの対応がうまくいかなかったりすると、常連客どころか悪い口コミが発生し、3か月を過ぎるとぱったり客足が途絶えてしまいます。そうならないように、オープン景気の来店客には全員満足してもらえるような、万全の構えで臨みましょう。
販売促進をしっかり行う
また飲食店はオープンしたからといって、人が見つけてくれてわざわざ来てくれるというものでもありません。その人たちは基本的にオープンしたことを知らないので、それを知らしめる必要があります。そのためには、できればオープン時だけでも販売促進を打ちましょう。
毎日問題点を確認し、その日のうちに改善を
そして最も重要な点は、毎日の営業で必ず問題点が出てきますから、それをその日のうちに明確にして、問題点を解決しておいたうえで、翌日以降の営業に臨むことです。それを忙しいからといって、先送りにしてしまうと、どんどん不満客が増えて、絶対に繁盛店にはなりません。そうならないように毎日問題点を改善することが最も重要です。
まとめ
いかがですか。 飲食店の開業は多くの人にとって「夢」ですが、利益を出さなければ続けられない「現実」でもあります。その現実をよい方に向けていくのが以上のポイントです。ぜひ以上を参考にして、自店舗を成功させましょう。