坪とは何か
店を開業しようという場合に、不動産情報をあたったり、損益計画を立てていると「坪」あるいは「坪当たり」という言葉によく出会いませんか。日常生活ではあまりお目にかかりませんが、これは、日本の昔からの面積を測る単位のことなのです。具体的には、1坪は約1.8m×1.8mの四角形の面積で、したがってメートル法で言えば、約3.3平方メートルということになります。また、日本独自の面積の単位には「畳」もありますが、畳2枚分が1坪です。ですから、6畳間は3坪の面積です。不動産情報などで坪単位で記載されていてイメージが湧かない時には、「何畳間と同じ」というように自分の中で置き換えて考えましょう。
したがって、換算式で言うと
坪=平方メートル÷3.305
平方メートル=坪×3.305
です。もしも店舗取得、飲食店開業、飲食店経営を考えてるのであれば、この式は覚えておいたほうがよいでしょう。
座席数と坪数の関係
では飲食店の開業を前提に、どのような席数が必要か、何人のスタッフが必要か、開業資金と運転資金はどの程度必要か、という点を「坪」を切り口に解説していきます。
坪当たりの座席数の平均
まず座席数の問題です。座席数は売上に直結しますので、できるだけたくさん席を設けたいはずです。しかし、坪当たりの席数が多い、お客様がすし詰めになるような狭い店の場合は、居心地がよくありませんから一般的には高い顧客単価をとれません。逆に坪当たりの席数の少ない、ゆったりとした座席数の場合は、高級感が空間からも演出できますから、高い食材を使った高級料理を提供して高い顧客単価にできます。
そのメドはだいたい以下の通りです。
- 高級店 1席/坪
- 一般レストラン 1.2~1.3席/坪
- 居酒屋、ファミリーレストラン 1.5席/坪
- カフェ、ファストフード店 2席/席
スタッフ数と坪数の関係
また、スタッフ人数と坪数の関係はどのようになっているでしょうか。一般的なレストランの場合、坪数よりは席数に対してのスタッフ数で計算することが普通です。
すなわち
- ホール 最大収容人数÷4÷4
- キッチン ホールと同人数
- 洗い場 1
です。つまり、最大収容人数をまず4で割ってるのは卓数を出しているからです。そして4卓につき1名のホールスタッフ、という計算のためにさらに4で割っているわけです。したがって、上で書いたファミリーレストランの、1.2席/坪をベースに当てはめると、
- ホール 坪×1.2席÷4÷4=0.075人/坪
- キッチン 同じなので、0.075人/坪
洗い場は全体の総面積次第ということです。しかし高級店の場合はサービスにもきめ細やかさが必要ですし、料理も凝ったものになりますから、坪当たりのスタッフ人数はこれよりも増えます。逆に、居酒屋、ファミレスはサービスの質はある程度しか重視されませんから、これよりも減ります。それを考えると、以下のようになります。まずホールです。
- 高級店 坪×1席÷4÷3=0.083人/坪
- 居酒屋、ファミレス 坪×1.5席÷4÷6=0.063人/坪
キッチンもこれと同じように考えればよいでしょう。一方ファストフードの場合はホールはほぼ0人でいい代わりにキッチンは充実させる必要があります。カフェの場合はホール、キッチンとも更に少なくても運営できるでしょう。
坪数によって異なる開業資金・運転資金の平均
では必要なスタッフ数がだいたい分かったところで、いよいよ今度は開業資金、運転資金を坪という切り口で見ていきます。
~15坪の場合
開業資金
まず開業資金についてですが、これは「居抜き物件」「スケルトン物件」でかなり変わりますので、それぞれで解説します。まず居抜き物件です。居抜き物件で開業する場合に必要な資金の坪当たりの単価は、だいたい以下のようなレベルです。
まず前家賃です。これは造作工事期間に当たる「契約日からその翌月分までの賃料」です。出店エリアに非常に左右されて、8000~3万円/坪と幅が出ます。したがって、10~15坪の店舗で、造作期間を1ヶ月と見たら、8万~45万円です。
次に保証金(敷金)です。一般の住居であれば賃料×2~3ヶ月ですが、飲食店の場合は10ヶ月程度が相場です。したがって、8万~45万円/坪、合計金額で80万~675万円、とこれも出店エリアによって相当に差が出ます。このほかにも
- 礼金:賃料1か月分なので 8000~3万円/坪、合計8万~45万円
- 仲介手数料:これも賃料1か月分なので、8000~3万円/坪、合計8万~45万円
- 造作譲渡費:これは居抜き物件の内装、設備を前賃借人から買い取る費用です。
これはその設備の新しさや、何を残置し、何を撤去するかによりますので、ケースバイケースです。一般的には200万円程度は見ておいたほうがよいでしょう。などが物件取得にかかる費用として想定されます。
また1番費用のかかる内装工事費は、最低限の店舗クリーニング費:2000~5000円/坪で考えます。したがって、20,000~75,000円です。ただし、壁紙を張り替えたり、什器を入れ替えたりした場合は、20万~50万円/坪はかかるでしょう。したがって、200万~750万円は見ておく必要があります。
店舗にかかる、その他の費用としては、坪とは関係なく看板施工費:5~20万円、人材採用費:10万円、販売促進費はどこまで力を入れるかによります。仮にWeb広告だけ行うとして、ぐるなび、ホットペッパーに最低料金で出稿すると、それぞれ月1万円です。このほか、1町内程度に当たる5000枚程の新聞折り込みを入れると、印刷代と折込料込みで5万円程度はかかります。
ではスケルトン物件からの開業の場合はどうでしょうか。これは居抜き物件の場合と重複するものもあります。
前家賃は8000~3万円/坪なのは同じですが、造作期間は3ヶ月はかかるので、24万~135万円です。
保証金(敷金)は居抜きの場合と同じです。したがって、8万~45万円/坪、合計金額で80万~675万円です。そのほかの礼金と仲介手数料は居抜き物件と同額です。
- 礼金:8000~3万円/坪、合計8万~45万円
- 仲介手数料:8000~3万円/坪、合計8万~45万円
更に内装工事費が1番費用がかかり、一般的には50~80万円/坪ですので、合計金額で500万~1200万円は必要です。
以上の最低金額同士、最高金額同士を合計したおおよその金額は、
- 居抜き物件:330万~1000万円
- スケルトン物件:600万~2100万円
となります。非常に幅がありますが、イメージで言えば居抜き物件は500万円、スケルトン物件で1000万円は最低考えておいたほうがよい、ということです。
運転資金
運転資金は、人によっては、飲食業は現金商売だから1か月分の人件費、家賃、仕入れ代金があればいい、とも言います。しかしそれは店に固定客がついて営業サイクルが回り始めてからのことです。多くの店は軌道に乗るまでの家賃、仕入れ代金、人件費を払えるだけお金の余裕がないため、軌道に乗る前に店をつぶしてしまっています。その実態は、開店1年以内での閉店が50%という数字に明らかです。そうならないようにするには、軌道に乗るまでの半年から1年間、仮に売上が予想の50%でも店をつぶさないで済む、という資金的な余裕を持っておくべきです。具体的には人件費、家賃、仕入れ代金の半年分を運転資金として用意しましょう。
そう考えた時に運転資金の内訳は以下の通りになります。
- 人件費 10~15坪なら、高級店でも居酒屋でも、スタッフはホール1名、キッチン1名で対応可能です。したがって、時給を1000円だとした場合、1000円×7時間×25日×2名×6ヶ月=210万円です。
- 家賃 8000~3万円/坪、合計8万~45万円の6ヶ月分で、50万~270万円です。
- 仕入れ代金 これも業態によりますが、居酒屋であれば、顧客単価が2000円ですから、売上の坪単価は3000円
です。最初は25日の平均で1日0.5回転だと考えると、原価率が35%であれば、10坪の場合は13万円、15坪の場合は20万円の仕入れです。
したがって6ヶ月分は、75万~120万円です。高級店の場合は、単価が5000円以上になりますので、180万~300万円です。
以上の最低と最高をそれぞれ合計すると、居酒屋で300万~600万、高級店で650万~800万円の運転資金を用意したほうがよい、ということになります。
20~30坪の場合
次に店舗が広くなった時の開業資金と運転資金を同じ考えで出してみます。これは「坪数に応じて総額が増えるもの」と「増えないもの」に分かれます。
開業資金
まず居抜き物件です。
- 前家賃:8000~3万円/坪、造作期間1ヶ月は変わりませんので、20~30坪の店舗では、16万~90万円です。
- 保証金(敷金):これも8万~45万円/坪は変わりませんので、合計金額で160万~1350万円です。
- 礼金:賃料1か月分なので、8000~3万円/坪、合計16万~90万円です。
- 仲介手数料:これも賃料1か月分なので、8000~3万円/坪、合計16万~90万円です。
- 造作譲渡費:10~15坪と同額の200万円程度で見ておきます。
- 店舗クリーニング費:2000~5000円/坪は変わりません。したがって、4万~15万円です。ただし、これも内装に手を入れると、20万~50万円/坪となり、400万~1500万円はかかるでしょう。
- 看板施工費:5~20万円
- 人材採用費:10万円
- 販売促進費:Web2万円、新聞折り込み5万円
となります。
スケルトン物件の場合は以下の通りです。
- 前家賃:やはり造作期間は3ヶ月ですから、48万~270万円です。
- 保証金(敷金):これも8万~45万円/坪ですから、160万~1350万円です。
- 礼金:8000~3万円/坪、合計16万~90万円です。
- 仲介手数料:8000~3万円/坪、合計16万~90万円です。
- 内装工事費 50~80万円/坪ですから、1000万~2400万円です
- 看板施工費:5~20万円
- 人材採用費:10万円
- 販売促進費:Web2万円、新聞折り込み5万円
以上を合計すると
- 居抜き物件:450万~1880万円
- スケルトン物件:1250万~4200万円
となります。
運転資金
運転資金も坪当たり単価は同じで、半年間の人件費、仕入れ代金、家賃は用意しておいた方がいい、という考え方も同じです。したがって以下のようになります。
- 人件費:20~30坪となると、業態別に変わってきます。居酒屋の場合は20坪でホール1名、キッチン1名、30坪ならホール2名、キッチン2名が必要です。高級店の場合は、20坪でホール2名、キッチン2名、30坪ならホール3名、キッチン3名が必要です。したがって、居酒屋の場合は210万円~420万円、高級店の場合は、420万~630万円です。
- 家賃:8000~3万円/坪、合計16万~90万円の6ヶ月分で、100万~540万円です。
- 仕入れ代金:これも考え方は同じで、居酒屋であれば、20坪の場合は26万円、30坪の場合は40万円です。したがって6ヶ月分は、150万~240万円です。高級店の場合は、360万~600万円です。
以上の最低と最高をそれぞれ合計すると、居酒屋で460万~1200万、高級店で880万~1770万円の運転資金を用意したほうがよい、ということです。
まとめ
いかがでしたか。飲食店の坪当たりを切り口にした開業費用や運転資金は、立地や業態によって単価が変わってきます。ですので、上記のように非常に幅のある数字なりますが、しかし単価の考え方、総合計費用の考え方自体は同じです。ですから上記をよく理解して、自分の考えている物件条件に当てはめ、席数、スタッフ人数、開業費用、運転資金を算出してみてください。