飲食店を開業するにあたっては、いろいろなことをしなければなりませんが、意外に忘れがちな点が事業計画書の作成です。飲食店を始める上で、営業許可証などの決まったフォーマットの書類を作成する以外にも書類を作らなければならないということ自体が思い当たらないかもしれませんが、この事業計画書が実は大きな役割を果たすのです。そしてこの事業計画書の目的は読んだ人に「この飲食店は成功しそうだ」と思わせ、納得させることなので、その内容は役所に出す書類のように通り一遍ではダメです。最悪の場合事業計画書の内容がお粗末なために、飲食店の開業が頓挫することさえあります。それほど事業計画書は飲食店開業の上で重要なのです。そこでここでは飲食店の事業計画書を書き方とコツについて解説します。
そもそも事業計画書がなぜ必要なのか?
冒頭で記載したように飲食店を開業する上で事業計画書は大きな役割を果たします。自店舗の成否を左右するといってもよいでしょう。ではなぜ事業計画書が必要なのでしょうか。
金融機関融資の審査のため
事業計画書を作成する必要性の最大のものは、たとえば日本政策金融公庫の新創業融資制度などの金融機関から融資を受ける際に提出が求められることです。金融機関はボランティアではありませんから、この経営者に融資して貸し倒れがないか、そして確実に利息も含めて返済できるかということを慎重に検討します。その際に、自店舗がしっかり集客できてかつ売上も利益も上がる、ということを融資担当者に納得させ、融資の審査を通過させるために、事業計画書が必要なのです。
補助金獲得のため
融資だけではなく、たとえば中小企業庁が行っている創業補助金などの補助金や助成金を申請する際にも事業計画書が必要です。補助金は返済しないでよいお金ですから、特に審査も厳しくなっています。ですから事業計画書の作成が必要なだけではなく、補助金審査担当者に「この飲食店は成功しそうだ」「今までにない新しいサービスを消費者に提供できそうだ」と考えさせる内容であることがより重要なのです。
将来性を明確にするため
このように開業にあたっての資金を獲得するためだけに事業計画書は必要なのではありません。経営者本人のためにも事業計画書をしっかり作ってみることが重要です。なぜなら、事業計画書を作成することで、自店舗が本当に成功するかどうかを、開業前に論理的に検証することができるからです。
つまり作成した事業計画書を客観的な視点で読んで、確かにこれは成功しそうだと思えればそのまま開業してもよいわけです。逆に客観的に見て成功しそうにないと思えれば、開業前に自店舗のコンセプトやメニュー、あるいは立地を再検討することが必要なのです。何となく開業した飲食店は何となく売上が上がらず、何となく廃業に至ってしまいますから、この点にはしっかり注意しましょう。
事業計画書の作成の流れ
では事業計画書を作成する流れはどのようなものなのでしょうか。それは単に「書類を作成する」だけではなく、自店舗のビジネスがうまくいくかどうかを論理的かつ現実的に考えるところも含めて行う作業です。具体的には以下のようなことです。
物件を決定する
まず最初に行うことは自店舗の出店場所を決めることです。飲食店が成功するかどうかの何割かは物件の立地が握っていますから、物件の決定に関してはよく検討することが必要です。そのためにはまずその物件が相場に比べて高くないか、歩行者や自動車から見て視認性がよいか、店舗の広さは妥当か、来店客が入りやすいか、残された設備などがあればきちんと稼働するか、などを確認しましょう。
出店エリアの特徴を調べ、書き出す
物件が決まったら、その出店エリアの特徴を紙に書き出してみましょう。
書き出す内容の1つは抱えている商圏の特徴と規模です。主に歩いてくる来店客を対象にしているのであれば自店舗から半径500m以内、自動車での来店客が対象なら車で15分範囲の半径8km以内の、人口、男女比、年齢構成、世帯年収、ターゲットと考えている層の割合などを調べましょう。仮に以上の情報が明確な数字で分からなくても、少なくとも抱えている商圏は半径500m範囲であればくまなく歩いて、8㎞範囲であればくまなく車で回って、どのような人が住んでいるかという現実を把握することが重要です。
また同時にそのエリアにある自店舗と競合しそうな飲食店の繁盛具合や、さらに繁盛店に関してはどのようなメニューと接客なのかという点も、来店客として訪問して確認しましょう。少なくともその店と互角に戦える強みが自店舗にない場合は、出店しない方が無難です。
自店舗の何が強みか考える
出店エリアの特徴がわかったら、その商圏に住んでいる人を対象にして、自店舗の強みがどこにあるのかという点を考えましょう。すでに自店舗のコンセプトやメニュー構成が決まっているのであれば、その内容で果たして自店舗の抱える商圏から集客できるかどうかを考えることが重要です。
その方法としては、「強み=自店舗を消費者が選んでくれる理由」なので、商圏に住んでいて、あるいは勤務していて自店舗がターゲットだと考えている人たちの、飲食に対するニーズを出してみましょう。たとえば、「1人暮らしのサラリーマンだから、帰宅途中で安くお腹いっぱい食べられる夕食を求めている」というような内容です。
その上で自店舗がそのニーズに合致したメニュー、サービスを提供するためにはどのような内容にしたらよいのかについて考えます。上の例でいけば「ワンコインで食べられる栄養バランス十分の丼専門店」というようなものです。ここで考えたターゲットと自店舗の内容の合致に納得性があるかどうかが事業計画書の「肝」になるので、しっかりと考えましょう。
主力メニューと価格を決める
そのような自店舗の強み、コンセプト、内容が決まったら、それを具体化する料理の主力メニューと価格を決めます。これは売上と利益の計画を立てるために必要なものなので、すべてのメニューを考えなくても主力の1品または2品だけでOKです。
売上計画を立てる
この主力メニューをもとに月ごとの売上計画を立てます。それもざっくりではなく、
- 平日と休日別
- ランチとディナー別
で出しましょう。
併せて自店舗の営業日も決定しましょう。ビジネス街が商圏であれば当然平日は営業して日曜日に休むことになりますし、住宅地が商圏であれば休日の営業は必須で、休業は月曜日などになります。また営業時間も一緒に考えましょう。
損益計画を立てる
売上計画を立てたら、その売上に沿って経費の計画も立て、利益まで出します。
必要資金を出す
利益まで計画がたてば必要な運転資金が出るはずです。たとえば自己資金が200万円あって、敷金と内装外装工事に500万円かかり、さらに開業から軌道に乗るまでの半年間は毎月20万円の赤字が出る場合、6か月の不足分は、
100万円-500万円-(20万円×6ヶ月)=520万円
ですから、融資が必要な金額は最低でも520万円ということがわかります。
このように具体的に融資申し込み金額が判明しているのも、融資の審査が通りやすいポイントです。
金融機関以外の資金調達を行う
また必要な資金は融資以外の方法で調達できないかも考えましょう。具体的には
- 家族や親戚からの援助、借入れ
- 知人や友人からの援助、借入れ
- ネットを使った資金調達のクラウドファンディング
などです。
事業計画書になにを書いたらよいのか?
以上のことをしっかり考えたら、その内容を事業計画書として作成すればOKです。具体的な書き方は以下の通りです。
事業計画書に何を書くか
自店舗がどういうエリアに出店するのか
自店舗の出店エリアの商圏を調べたはずなので、その内容を記載します。具体的には以下の項目です。
- 最寄りの駅、バス停からの距離
- その乗降者数
- 目の前の交通量
- 物件の立地の特徴(2階である、角地である、交差点に近いなど)
- 半径500mの範囲の人口や居住者の特徴
- 商圏に居住している、または勤めているターゲットの割合
自店舗のターゲットは誰で、そこに対して何のコンセプトを訴求するのか
これも上で検討した通り、その商圏のターゲットがなぜ自店舗を選んでくれるのかという理由、すなわち自店舗の強み、コンセプトをわかりやすく、かつ陳腐ではない内容で記載します。たとえば
- 週末にゆったりくつろげる隠れ家カフェ
- サラリーマンが帰宅途中に安く空腹を満たせるワンコイン定食店
- 来店するだけで元気がもらえる癒し系居酒屋
などです。
コンセプトの具現化の方法
そのコンセプトがどのように素晴らしくても、具体化する方策がなければ絵に描いた餅です。ですので、コンセプトを現実のものとするために、料理内容がコンセプトの中心であればメニュー、その食材の調達方法、調理のポイントを、接客が中心であれば、具体的な接客内容とそれをどのように従業員に教育し実行するのか、などを記載します。
主力メニューの内容
接客の良さがコンセプトである場合でも、売上を上げるのは結局のところ料理です。ですから売上計画を説明するためには、売上の主力メニューが何かを記載する必要があります。これは上でも解説したように。ランチとディナーで分けて書きます。たとえば、
- 【ランチ】ワンコイン魚介定食:売上占有比45%。客単価500円~600円
- 【ディナー】季節の魚介満喫コース(2,000円と3,000円)+ドリンク:売上占有比55%。客単価2,800円
というように書きましょう。
損益計画
事業計画書で最も重要な内容が損益計画です。自店舗が利益を出せる構造になるかどうかを納得性のある損益計画で示すために、事業計画書のここまでの内容があるといっても過言ではありません。ですから損益計画は以下の内容で詳細に記載しましょう。
具体的には、開業当初と何ヶ月後かに軌道に乗った段階の2つに分けて、月間売上、仕入額、主な経費、利益を記載します。たとえば以下のような内容です。
開業段階
売上 1,462,500円/月
<根拠>
1日の売上:ランチ 顧客単価550円×30人
ディナー 2,800円×15人 合計58,500円
月間売上:58,500円×25日=1,462,500円
仕入 511,875円/月
<根拠>
1,462,500円×原価率35%(業態と主力メニューの内容と原価で算出)
=511,875円
経費 801,672円
<内訳>
家賃:30万円/月
支払利息:11,667円(借入金700万×年利率2%÷12ヶ月)=11,667/月
人件費:アルバイト
時給1,000円×6時間(ランチ2時間+ディナー4時間)×(平日15日が3名、週末10日が2名)
=39万円/月
オープン時の販促費:5万円(グルメサイト2万円、ポスティング3万円)
その他(水道光熱費、通信費、雑費):10万円
利益 149,953円/月
<根拠>
売上1,462,500万円-仕入れ511,875円-経費801,672円
=149,953円
1年後(軌道に乗った段階)
上記をベースに、
- リピート客獲得による売上アップ客
- 売上に伴う仕入れ額の増加
- 来店客に合わせてアルバイトを増やす人件費の増加
- 新規客を獲得するための販売促進費の計算
- 売上で変動する費用(お手拭きなどの消耗品、水道光熱費など)の計算
を踏まえて売上と費用および利益を算出します。イメージ的には、最大限に成功した場合と、失敗した場合の中間くらいの売上レベルにしましょう。
自分の力だけで書かないという方法も
以上のような詳細な内容を作成するのが苦手な場合でも、インターネット上に事業計画書のテンプレートがありますから、それに従って記入すればそれなりのものはできるでしょう。あるいはお金に余裕がある場合、日本政策金融公庫ではなく審査の厳しい金融機関に融資を申し込む場合、額の大きな借り入れをする場合は、会計士などの専門家に頼む方法もあります。
ただしいずれの場合も、他者の力を借りるのは「作成する」部分だけで、その内容は自分でしっかり考える必要があることは忘れないでおきましょう。そこまで人に頼った場合は、ほぼ確実にその飲食店は失敗しますので要注意です。
審査に通過するためには
以上の内容が事業計画書になりますが、作成する以上は融資の審査、補助金の審査に通過しなければ意味がありません。そのためには以下の点も押さえましょう。
事業計画書は「プレゼン資料」として作る
プレゼンとはプレゼンテーション、つまり事業計画の説明資料のことです。上でも書いたように、事業計画書は審査担当者を納得させ金を出すことをOKさせることが最大の目的ですから、役所に対しての届け出の書類を同じ気持ちで作成してはダメです。論理的に正しく、かつ内容が魅力的であることが必要だということをしっかり理解しましょう。
そのためには以下のポイントが重要です。
- 自分が口頭で人を説得する時の順番で書く
- 専門用語や抽象的な言葉ではなく、わかりやすく具体的な言葉で書く
- 必要であれば図や地図を入れる
妥当性のある内容で書く
また絵に描いた餅は相手もいくつもの事業計画書を見ていますからすぐに分かってしまいます。ですからリアルで確かにその通りだと思えるような説得力のある内容で書きましょう。
読みやすい形で書く
いくら内容が素晴らしくても相手が読めない、読みにくい、読むのに苦労するものだと、その内容は伝わりません。ですから基本はMicrosoftのWordまたはExcelで作成するか、手書きの場合は可能な限り丁寧な字で書きましょう。
まとめ
いかがですか。
事業計画書は資金調達に直結している書類です。ですからこの内容や書式がお粗末であれば、資金調達ができません。したがって、飲食店の開業は頓挫するとはそういうことです。開業計画が頓挫しないためには、以上の内容、書き方、説得力を踏まえて、しっかりと考えて事業計画書を作成しましょう。