飲食店を開業する時には、その中にも特に夢があって楽しい作業がありますが、そのうちの1つが店舗の内装、外装のデザインを考えることでしょう。しかし、おしゃれさや自分の夢だけでデザインしてしまうと、後で使い勝手が悪くて、オペレーションが非効率になるなどの弊害があり、店舗デザインは現実的な面でも考えなければならないということもまた事実です。そこでここでは、繁盛店に共通する店舗デザインのポイントを解説します。
店舗デザインとは
そもそも店舗デザインとは、店舗の内装と外装の設計のことです。このうち外装も重要ですが、特に開業後、その作業効率や店の雰囲気づくりにボディブローのように効いてくるのが内装のデザインです。 具体的には、まず店内のホールの座席配置とキッチンの動線を含めたレイアウト、壁の色やパテーションのデザイン、厨房機器などの配置、エアコンなどの設備の配置など多岐にわたります。これらをその店のコンセプトに合わせて考えるだけではなく、内装、外装にかけられる予算も含めて素材や形、色を考えていきます。 場合によっては内装に合わせたテーブルとイスまでデザインすることもあります。 これらを図面に落としこむところまでが設計、すなわち店舗デザインです。
デザインとは別に施工が必要
もちろん内装も外装もデザインができ上がればそれで終了ということではありません。それをもとに現実化する、つまり工事をしてデザイナーの指示通りに内装と外装を作り上げる、施工というものが入ります。この部分はデザイナーではなく施工会社が行い、デザイナーは関与しないことが一般的ですが、しかし最近は、デザイン通りに仕上げるように施工会社を監督したり、工事現場発生する問題を都度その場で解決する、施工管理の仕事までデザイン会社が請け負うところも増えてきています。
店舗デザインにかかる費用
このデザイン部分だけを取った場合、費用がどれくらいかかるのか、という点についてはイメージがわかないのではないでしょうか。 デザイン費用は、その物件が、前の賃借人の残していった内装やレイアウトをそのまま利用する「居抜き」の場合と、物件が全くのがらんどうで、建物の躯体がむき出しになっており、0からレイアウトも壁の装飾も作り上げるスケルトンの場合で、異なってきます。スケルトンの場合は、デザインする部分が圧倒的に増えるからです。
その店舗デザインの費用としてデザイン会社に支払うお金は、1つはそのデザインに対する報酬があります。そして上で挙げた施工管理まで依頼する場合その上に施行管理費を支払うことになります。 そのうちのデザイン料の決め方はデザイン会社によって違いますが、おおむね2つの体系があります。 1つは「坪数×デザイン単価」で、もう1つは総工事費に対して何%か支払うというもので、この場合相場は10%程度です。デザイン単価は、これこそピンからキリまであり、個人で営業していて、まだ経験や実績、知名度が少ないデザイナーの場合は1万円~数万円です。しかし、飲食店のデザイン実績が豊富で業界でも有名なデザイン会社の場合は、10万円を軽く超えます。
ただし、経験値は別にして、提案してくれるデザインがまさに繁盛店につながるような、コンセプチュアルなものかどうかは、デザイン費用とは比例しないので、デザイン費用だけで決めないで、そのデザイナーやデザイン会社の過去のデザイン実績や考え方をよく確かめて頼むことが大切です。 さらに施工管理まで依頼する場合は、また別途、「坪数×施工管理単価」か総工事費に対して%かで、費用が発生します。 以上のデザインにか関わる費用と、施行管理費のほかに、施工会社に支払う施工費用も必要になります。
これはさらに内訳で言うと、設備工事費と造作工事費の2つから成り立ちます。 設備工事費とは電気、給排水、ガス、エアコン、キッチンのダクトなどの飲食店として必要な設備工事に関わる費用で、造作工事費とは内装と外装の装飾、個室などを作る場合のパーティションの作成、看板の作成と設置などの費用です。 これらは個々の作業別の実費に、全体の作業に対する施工会社の手数料を加算されて計算される場合がほとんどです。
デザインを依頼するには?
では実際に店舗を開業することが決まって、物件も決定した後、どのようにデザイン会社に依頼したらよいのでしょうか。その流れは以下の通りです。
デザイン会社の選定
まず最初にしなければならないのはデザイン会社の選定です。これには以下の3つの方法があります。
他の飲食店仲間の紹介
知り合いの飲食店でデザインをしたデザイン会社を紹介してもらうのが1つの方法です。この場合は、実際にデザインして完成した物件を見て判断できる点がメリットです。
自分で探す
2つ目はインターネットや飲食店専門雑誌などを使って自分で探す方法です。 インターネットの場合は「飲食店 デザイン」で検索すると、たくさんのデザイン会社が表示され、ほとんど会社はデザイン実績も併せて掲載していますから、それを参考に選定することができます。 飲食店専門雑誌の場合でよくあるのは繁盛店のデザインを紹介する特集などで、その依頼のプロセスや依頼主とデザイナーの意図、総費用と開業後の集客実績などまで細かく記載されているので、掲載例は多くありませんが参考になります。
マッチングサービスを利用する
最近多いのは、インターネット上のマッチングサービスです。これは飲食店向けのデザイン会社ばかりを掲載しているサイトで、こちらの希望条件を入力すると、それに合致したデザイン会社を表示してくれるサービスです。この場合は、特に同じ条件で複数のデザイン会社が表示されますので、それぞれに問い合わせて相見積もりをとり、比較することができて便利です。この場合、マッチングに対する費用は無料です。
デザイン会社の選定基準
これらのデザイン会社は有名なところや費用が高いところが、クオリティが高くて、こちらの希望に沿ったデザインを提案してくれるとは限りません。ではそのデザイン会社をどのような基準で選べば満足できるデザインが得られるのでしょうか。具体的には以下の点が選定のポイントです。
飲食店専門のデザイン会社で同じ業態のデザイン実績がある
多くの場合、デザイン会社は自分の得意な業種、業態を持っています。 中には飲食店のデザインを専門に扱っているところもあります。デザイン実績が多ければ多いほど、繁盛店を作り、使い勝手の良い内装を提案する力に優れている場合が多いので、できれば飲食店専門のデザイン会社で、デザイン実績が豊富なところを選びましょう。 そして飲食店専門の場合でも、さらにファストフードが得意なところや、高級店が得意なところなどもありますから、自分の考えている業態の実績が豊富なデザイン会社を選定しましょう。
デザインテイストが希望に沿っている
もちろんデザインテイストがこちらの希望と開業予定の店舗のコンセプトにあっている、という点も重要です。おしゃれなデザインが得意なデザイン会社や、効率的な店舗設計が得意なデザイン会社など様々だからです。そしてなおかつその中でも、暖かい雰囲気がいいとか、スタイリッシュなものが好き、などの依頼主のデザインの好みもありますから、それにも合致しているほうが、より満足できるデザインを提案してもらえるでしょう。
デザイン費用の予算の価格帯が得意である
またこちらの想定しているデザイン費用の予算と、デザイン会社の得意なデザインの予算の価格帯が合っていることも重要です。 というのは、デザイン会社によって内装に使う材料が高級な大理石やガラスを使ったものが得意だったり、安い材料を探してきてそれをうまく組み合わせるのが得意だったりするからです。
依頼主の要望に応えることをモットーにしているデザイン会社か
デザイン会社によっては依頼主の意向をあまり聞かずに、自社の得意なデザインを説得して押しつけてくるところもあります。彼らの持っているノウハウは貴重ですが、しかし基本的にはこちらの意見と要望をヒアリングすることに十分な時間を割き、その要望など沿ったデザインを提案してくれるデザイン会社を選定しましょう。
提案するデザインコンセプトが売上に直結したものになっているか
しかし同時に、単純に依頼主の要望を言われたとおりにデザインするデザイン会社ではなく、その飲食店が繁盛店になるためのデザインコンセプトまで提案してくれるところを選んだ方がよいでしょう。たとえば、おしゃれな店にしたいと言われておしゃれなデザインを提案してくるデザイン会社よりも、「かまどの火が見えるオープンキッチンにしてシズル感を強調しましょう」などの提案があるデザイン会社の方が、こちらにとってメリットが大きい、ということです。
打ち合わせ
デザイン会社が決まったら、打ち合わせです。どのようなコンセプトの店にしたいのか、工事の予算総額はいくらなのか、ということをできる限り具体的に伝えた方が、満足できる提案が得られます。抽象的な要望では、自分の意図と違ったデザインが上がってくることが多いので気をつけましょう。ですのでできれば打ち合わせの際には、自分のイメージとあっている既存店舗の写真などを用意して、具体的に要望する方がよいでしょう。
パースの提案
打ち合わせ内容を元に、完成予想図のスケッチや、パースと呼ばれる立体的に見せる店舗のデザイン画が提案されます。そこで自分の要望やイメージと違う場合はしっかりと告げ、満足できるものが上がってくるまで、何度も要望と提案を繰り返しましょう。ただ、相手もプロですからこちらの考え以上の深い意図をもってデザインを考えている場合もあります。自分の要望を違ったからと言って一蹴しないで、なぜこのデザインになったのかというと相手の意図もしっかりと確認しましょう。
またそのデザインにした場合の費用概算を確認することも忘れないようにしてださい。 ここまでの流れを複数のデザイン会社に依頼して、比較検討し、ベストところを選んでもよいでしょう。この方法を「デザインコンペ」といいます。ただし、基本は無料で作業をしてもらうので、上がってくる提案も簡単なスケッチ程度になることが多いです。詳細なデザインで比較したい場合は、それぞれの会社にコンペフィーと言われる、スケッチやパースの作成費用を支払った方がよいでしょう。
デザイン設計の詳細を決める
デザイン会社やデザインの方向性が決まったら、それをもとに詳細な設計が行われます。このデザインには使用する材料の提案も含まれますので、工事費用がいくらになるのかがかなり具体的になります。ですから、デザインは満足できるが予算オーバーだという場合はその旨も伝えましょう。するとデザイン会社は安い材料をどのように使って、そのデザインを実現するか、ということを提案してくれるはずです。
施工会社選定
デザインの詳細が決まったら、施工会社の選定です。施工会社も自分で探すことができますが、施工会社選定には、素人ではわかりかねる具体的で細かい施工の内容もあるので、できればデザイン会社に施工会社の選定、提案までしてもらった方がよいでしょう。またこれもデザイン会社主導でコンペをすることも可能です。
着工
施工会社が決まったら、工事開始です。素人には細かい点はわからないものの、デザイン提案時とそれが実際の内外装になった時のイメージが違う場合や、工事してみて初めて気づく使い勝手の悪さなどがあるので、できるだけ頻繁に工事現場に足を運びましょう。そして、工事の邪魔にならないように、自分のイメージに沿った内外装になるか、ということを確認し、イメージと違うようであればすぐにデザイン会社に伝えることが重要です。
竣工、引渡し
工事が終了したら、現場を検証して、水道、ガス、電気、エアコンなどの設備がきちんと動くか、厨房機器の使い勝手はよいか、客動線、スタッフ動線は問題ないか、細かい傷などはないかなどを確認します。それらで問題があった場合は、すぐにデザイン会社に伝え、可能な限り直してもらいましょう。
まとめ
飲食店のデザインを、自分の趣味の実現だけではなく、繁盛店になるためのものにするには、デザイン会社の知恵も十分に活用しながら、詳細の設計図まで自分の目でよく確かめ、工事後の姿を想像することが大切です。それを怠って、デザイン会社や施工会社に丸なげしてしまうと、でき上った内装、外装が自分のイメージと全く異なっていたり、思いのほか安っぽかったり、スタッフ同士やスタッフのお客様の動線が重なって混乱したり、厨房機器の使い勝手が悪かったり、とさまざまなトラブルが完成後に発覚してしまいます。
それらを直すにはまた別途費用がかかるので、泣く泣く我慢するしかありませんし、それは多くの場合繁盛店から遠のく道です。 そのようなことがないように、デザイン会社にはできるだけ具体的に要望と店舗コンセプトを伝え、詳細の設計図を自分なりにしっかり読み込み、工事現場で現物確認をしましょう。