資金繰りとは?
資金繰りとは、支払うべきお金と、入金予定のお金のプラス・マイナスを日別で予測して、それがマイナスにならない、つまり「支払うべきお金が支払えない」ことが起こらないように現金を用意することを言います。資金が足りなくなることが予測される場合には、借入をしたり、定期預金を解約したり、支払いを伸ばしてもらったり、ツケで払っているお客さんに支払ってもらったり、ということをします。それをしないと、帳簿上は売上から経費を引いた利益が「黒字」でも、支払いができなくなって倒産してしまうことがあるのです。これを「黒字倒産」と言います。
飲食店だけではなくすべての事業の経営者が考えるべき最優先事項だと言えるでしょう。飲食店を開業する場合は、まずオープン段階の資金繰りと、オープンして平常営業になった時の資金繰りの両方を考える必要があります。なぜかというと、特にオープン時は店舗取得のための敷金、内装工事費用、設備や什器の購入、開業のための販売促進費用、スタッフ募集のための求人費、最初の仕入れ代金など、売上という入金がないにもかかわらず、支出ばかりになるからです。したがって、その支出を賄えるだけの資金を用意しなければなりません。
通常営業においては、売上が上がれば入金はある程度予想できますから、それに対して日々支出される経費、月末にまとめて支出される経費などをすべて洗い出して、それがプラスになるのか、マイナスの場合は手元資金で対応できるのか、ということを考える必要があります。
飲食店経営の資金繰りでおさえるべきポイント
このように書くと資金繰りという作業そのものの大変さばかり想像してしまうかもしれませんが、ほかの事業に比べて飲食業の資金繰りは楽な方です。なぜかというと、売上の入金はほとんど現金なので、売上さえ上がれば入金の心配や、複雑な予測計算をしなくて済むからです。これが手形取引中心の企業になると、いつ手形が決済されるのか、資金が足りない場合は決済期限前に現金化したほうがいいのか、ということをそれこそ必死に考えなければなりません。
そして楽な理由の2つ目は、多くの場合、売上の入金は毎日あり、仕入れの支払いは月末だということです。つまり、食材を仕入れる、それで料理を作って営業する、売上入金がある、その入金の中から仕入れ代金を支払う、というサイクルが回るので、資金繰りに困る可能性が他の業種に比べて少ないのです。
また、仕入れ代金以外の経費処理も、減価償却費を除けば、購入した消耗品や、使った光熱費の代金を後払いで支払うだけですから、これもほかの業種に比べて非常にシンプルなのです。問題が起こるとすれば、たとえば、売上が思うように上がらないので急遽折込チラシを打とうと思った時に、仕入れや人件費を支払っても、販促費の支払いができるか、という判断が必要な場合などです。
そういう時のために経営者が把握しておくべきなのが FLRコスト比率です。Fとは「Food」で食材などの原材料費を指し、Lは「Labor」で人件費を指し、Rは「Rent」で家賃を指します。この3つの経費は、Rは毎月固定ですし、FとLは売上に対して、毎月だいたい一定の比率で支出が発生します。ですので、このFLRのコストは、その比率、つまりFLRコスト比率をつかんでおけば、月末が来る前にだいたいの金額がわかるのです。そして、費用の中でもこのFLRの割合が一般的には最も多い支出ですから、ここを押さえておけば、資金繰りの余裕度はだいたい判断がつくのです。
基本は過去1年程度のF、L、Rの費用を売上で割って、自店舗のFLRコスト比率を出しましょう。ここでは参考までに「健全に経営している」飲食店のFLRコスト比率をご紹介しておきます。
- Fコスト比率 35%以下
- FLコスト比率(FとLの合算値の比率) 60%以下
- FLRコスト比率 70%以下
だいたいこの範囲に自店舗のFLRコスト比率が納まっていれば、月中にある程度の急遽の費用を投入しても、あるいは通常の営業のための物品を購入しても、月末に仕入れ代金、人件費、家賃を支払ったうえでなおかつ現金が残るようになるはずです。
キャッシュフローを把握する
キャッシュフローという言葉を聞いたことがありますか。「キャッシュ」とは、手許の現金のほか、普通預金、当座預金などのことを指します。「フロー」とは流れのことです。つまり現金の流れのことをキャッシュフローと言います。これは企業経営における「損益計算表」「貸借対照表」と並んで3つ目の会計上の重要指標です。
一般企業ではそのキャッシュフローは、営業活動によるもの、そこに固定資産の購入と減価償却を勘案したもの、さらにそこに借入金の利息や支払いを勘案したものの3つを考えますが、飲食店の場合は営業活動によるキャッシュフローだけ考えればよいでしょう。その点で言えば、ほぼキャッシュフロー=資金繰りになります。つまり経営学の本に「キャッシュフロー経営が大切」というようなことが書いてありますが、飲食店においては「資金繰りが大切」ということとほぼ同じ意味です。
上で少し書きましたが、資金繰り、つまりキャッシュフローと、利益は異なります。ですから黒字でも支払うお金が無くなって、倒産してしまうことがあり得ます。その点について、詳しく解説しましょう。
たとえば、500円で仕入れた魚を1500円の刺身で出すとします。
その際「利益」は1500円-500円=1000円です。お客様がそれを現金で支払ってくれれば、「キャッシュフロー」は入金1500円-仕入れ500円=1000円で利益=キャッシュフローと黒字になります。しかしお客様がクレジットで支払った場合、入金は数か月後になります。したがって、キャッシュフローは、入金0円-仕入れ500円=-500円と、キャッシュフローと利益とは異なった金額になります。
これを把握することがキャッシュフロー経営であり資金繰りなのです。さらに、毎月のキャッシュフローのプラス分と、元から持っていた貯金を合わせて月初に1万円の現金があった場合、月末のキャッシュフローは1万円-500円=9500円になります。この金額0円にならなければ店舗は倒産しない、ということです。
逆に、売上の全てがクレジットで、月初に現金が全くなければ、その月の損益上はしっかりと利益が1000円出ているのに、月末のキャッシュフローは-500円になって、支払いが滞り、倒産してしまいます。これが「黒字倒産」なのです。
そのようなことが起こらないように、最低でも月単位のキャッシュフロー計算書、つまり資金繰り表は作成しましょう。これは、月初から月末にどれだけ現金が増減するか、ということの予測計算になります。
その時の簡単な計算方法は、
月初の現金にプラスするもの(A)
- 現金売上予測
- クレジット入金予定額
月初の現金からマイナスするもの(B)
- FLRコスト率を当てはめた、仕入れ代金、人件費、家賃
- 月末の予定支出(光熱費、販促費、リース代、消耗品費、その他)
- 借金をしてる場合の返済及び利息
を予測し、月初手持ち資金(=現金+貯金)+(A)-(B)=月末手持ち資金です。この月末の手持ち資金がプラスになるように、そして徐々に徐々に増えていくように経営していけばよいわけです。
在庫管理をきちんと行う
このキャッシュフローをする中で実は落とし穴があります。それは「予測しなかった支出が月末に突然出る」ということです。すると、キャッシュフロー上は黒字を予定していたものが、実際には赤字になって、あわてて資金を調達しなければならなくなります。その大きな要素が「食材のロス」です。これはFコスト比率を35%だとを思って計算していたものを、月末に計算したら38%になっていたということを発生させる、重大な予測外支出です。
ですからできるだけこの食材ロスが発生しないようにする必要があります。そのために大切なのが在庫管理をきちんと行うことです。つまり、冷蔵庫の中で賞味期限を過ぎて廃棄せざるを得なくなる食材をなくすのです。具体的には「先入れ、先出し」を実行することです。先入れ先出しとは、入荷した食材の中で古いものから順に使うことです。そのためには食材庫や冷蔵庫は新たに入荷したものを奥に入れ、手前に来るにしたがって古いものになるように管理しましょう。
(個人経営の場合)生活費と区分する
また特に個人経営の飲食店では、キャッシュフローの内容が実態とずれる、あるいは正しい内容が分からなくなるケースがあります。つまり、手元に現金があっても、それが店舗としての現金が残っているのか、自分の個人の現金があるのか、ということが判然としない状態です。これは、店舗の財布と自分の財布を一緒にしているために起こることです。売上入金を自分の個人の財布に入れる経営者は少ないでしょうが、毎日のちょっとした消耗品や足りない食材の買い物を自分の財布から出してしまったり、自分の家で食べる夕食の食材を店舗の食材庫から持って帰ったりする、ということなどによって発生します。そうなると、店舗は実はキャッシュフローが赤字になっても、自分の現金と合算して見ているので、店舗の経営状態がよくない、ということが分かりません。それは放置しておくと、本当に倒産してしまう非常に危機的状況です。
ですからそうならないように、店舗の財布と個人の財布は完全に分けることが重要です。売上は店舗の財布に入れ、店舗の経費は店舗の財布から支払う、自分の個人の買い物は自分の財布から支払う、ということを徹底しましょう。
事業計画を見直す
もしも毎月のキャッシュフローが赤字になるようでしたら、その店舗の経営方法は間違っていますし、さらに言えば倒産の滝つぼに向かって漂流している船のようなものですから、早急に対応する必要があります。その時にはまず事業計画を見直しましょう。
まず最初に、料理の値段を上げるか食材費を見直すことで原価率(Fコスト費率)を下げられないか、人件費比率(Lコスト費率)を下げるためにシフトを見直せないか、などを行います。そして、その上で期中に予定している大きな支出を見直しましょう。たとえば年末に行う予定だったキャンペーンの規模を縮小する、あるいは中止する、厨房機器の入れ替えを来年度に回す、家賃の更新月が近ければ賃料の値下げを家主さまに頼む、などです。それらによって毎月のキャッシュフローが黒字になるようにしましょう。
固定費と変動費の把握
その事業計画の見直しを行ううえで大切な点が、固定費と変動費の把握です。変動費とは、売上の増減に伴って経費自体の金額も増減する経費のことです。固定費は売上と関係なく低額が支出される費用を言います。
変動費の主なものは
- 原価
- 人件費
- 水道光熱費(ガス代、電気代、水道代など)
- 販売促進費(求人広告、集客広告、サイト運営などの費用です)
- その他(事務用消耗品、修繕費、通信費などの諸経費です)
- 手数料、ロイヤリティ(クレジット売上に対する加盟店手数料、FC契約などをしていればロイヤリティです)
などです。固定費の主なものは
- 家賃(賃料、共益費、売上歩合家賃などを合わせた費用です)
- その他(減価償却費、支払利息、リース料などを合わせた費用です)
などです。事業計画の主な見直しの対象になるものは、この中で変動費ですから、毎月この変動費がどの程度支出されているのか、無駄はないのか、今後の予定はどうなのか、ということを把握し、検討しましょう。
まとめ
いががですか。商売で大切なのは現金=キャッシュです。それはむしろ損益よりも重要です。仮に損益が赤字でも、キャッシュフローが黒字なら店舗は倒産しません。その1番よい例がアメリカのAmazonです。Amazonは創業して10年以上大きく赤字を出し続けましたが、倒産せず、むしろ売上を伸ばし続けました。それはなぜかといえば、Amazonのビジネスが成功すると考えた投資家がAmazonに資金を提供し続けたため、キャッシュフローは常に黒字だったからです。この構造はAmazonのような他業種の大企業でも、個人経営の飲食店でも全く同じです。ですから資金繰りを毎日しっかり管理すること、キャッシュフロー計算を月単位で行うこと、毎月赤字なようなら早急に手を打つことを行いましょう。