損益計算書、あるいは別名で売上収支表は、ビジネスや商売においては必須のものです。とは言えビジネスや商売を初めて自営でする人や、自分は数字が苦手だからといって今まで損益計算書を扱うことを避けてきた人もいるでしょう。しかし損益計算書の見方を知らないと、自店舗の業績を正しく把握することも、問題点を見つけることもできません。逆に言えば正しい見方を知っていれば、自店舗を儲かるようにする方法がわかるのです。そこでここでは、損益計算書の見方を解説し、自店舗の儲け方をお教えします。
損益計算書とは?
まず最初に損益計算書とはどのようなものなのかの解説です。
損益計算書とは「儲け」を計算する表
損益計算書とは、ある商売やビジネスの1ヶ月、3ヶ月、半年、1年といった一定期間の業績を示す表です。
その内容は概略する以下の3つです。
- 売上(=どのくらいの売上があがったか)
- 費用(=その売上を出すためにどのくらいの費用を使ったか)
- 利益(=売上から利益を引いたらいくら儲かっているのか)
損益計算書とは経営状態を見るもの
ビジネスを経営してい上で最終的な目標は利益です。しかし仮にその目標の利益を上げた場合でも内容は以下の3つに分類できます。
- 売上も費用も計画通りのため利益が目標に達した
- 費用が計画よりもオーバーしたが、売上がそれ以上に出たので利益が目標に達した
- 売上は計画に足りなかったが、費用を抑えたので利益が目標に達した
利益はどのように計算するか
では利益の計算方法はどうなっているでしょうか。それは以下の式が基本です。
売上 - 費用 = 利益
まずこの点をしっかり理解しましょう。
例に挙げると以下のような内容になります。
- 売上 400万円
- 原価(仕入れ) 120万円
- 人件費 100万円
- 家賃 30万円
- その他費用
(水道光熱費、宣伝広告費、販売促進費、通信費、消耗品費、修繕費)60万円 - 営業外収支
- 預金利息
5万円-借入金利息10万円=-5万円 - 法人税40万円
- 売上総利益(粗利)
400万円-120万円=280万円 - 営業利益
280万円-(100万円+30万円+60万円)=90万円 - 経常利益
90万円-5万円=85万円 - 純利益
85万円-40万円=45万円
利益を出すために
以上の計算式を使うと利益が算出できます。しかし計算をするだけでは意味がありません。大切なのはこれらの数字を見て、もっと利益を上げるためにはどの部分に手を入れたらよいのかを掴むことです。そのためには以下の点を理解しましょう。
損益計算書で盛るべきこと
まず損益計算書の内容に盛り込むことは以下の点です。
売上総利益(粗利)
何より把握するべきは、売上から原価を引いた粗利です。またこの粗利を売上で割ったもの数字である、粗利率または原価率です。
先ほど挙げた例でいえば粗利率は、
280万円÷400万円=70%です。
一般的な飲食店の場合、粗利率は65~70%です。基本はこの中に納まっているかどうかを見るようにしましょう。
FLコスト
次に把握するべきは、「FLコスト」というものです。これはFが「Food」つまり原価、Lが「Lavor」つまり社員やアルバイトの給料である人件費のことで、FLコストとはつまり「原価+人件費」です。
これがなぜ大切かというと、2つあります。1つは飲食店においてはFLコストが売上の50%程度を占めるので、利益を大きく左右するからです。2つ目は、原価も人件費も店長の裁量で増えたり減ったりするからです。
したがって利益を出すためにはこのFLコストを適正にコントロールする必要があるのです。
「適正に」という意味は、費用ですから利益のためには当然少ない方がよいという反面、これを減らし過ぎると顧客不満足につながるということです。たとえば原価を削るために、食材を質の悪いものにすればすぐに味に影響が出て顧客不満足につながります。また人件費を削るためにホールスタッフを減らせば接客に支障が出て顧客不満足になります。同様にキッチンスタッフを減らせば料理の質が落ちるか提供速度が遅くなってこれも顧客不満足をもたらします。
ですから、FLコストは減らすことがベストですが、しか少なすぎても問題を発生させるのです。
FLコストを売上で割ったものをFL比と言います。このFLコストを一般の飲食店で55~65%のするのが適正レベルだといえます。FLコストはこの適正レベルになるようにコントロールしましょう。
家賃
家賃はFLコストとは異なり、1回契約するとなかなかコントロールすることは難しい費用です。しかし家賃は「固定費」と言って、売上と関係なく一定の金額が必要な費用です。つまり仮に売上が半分になっても、家賃は満額でかかるのです。したがって、これも利益にとってはボディブローとして効いてきます。
また家賃の適正レベルは売上の10%程度です。
利益を出すための方法とは
では利益を出すためにはどのような方法をとればよいのでしょうか。
売上を上げる
まず「売上がいかないために利益が出ない」という場合は、とにかく売上を上げるしかありません。そのためには顧客満足度を上げましょう。詳細は別の記事に譲りますが、たとえば費用を増やさないで料理の内容を変えたり、接客のトレーニングをすることなどです。
仕入れを見直す
次に「売上は計画通りだが、FLコストのうち原価が過大」という場合です。
この時には食材の見直しをしましょう。具体的には以下の方法です。
- 料理が貧相にならないように注意しながら1皿の量(ポーション)を減らす
- 食材の仕入れ先を見直したり、現取引先と値引き交渉をする
- 国産鶏をブラジル産にするなど、食材を安いものに入れ替える
- サラダのレタスを減らして春雨を入れるなどして、ポーションを変えないで高い食材を安い食材にする
シフトを見直す
「売上は計画通りだが、FLコストのうち人件費が過大」という場合には、以下の方法で人件費を削減しましょう。
- 時給を下げて、その分を自店舗の売上連動で毎月臨時給与として加算するなど、人件費を売上連動にする
- 売上予測を正確に立てて、売上に対して適正なシフト人数にし、売上が少ないのにスタッフばかりが多いことを避ける
- ベテランばかりの時間帯は人数を減らすなど、シフトインするスタッフの力量によって、シフトする人数をコントロールする
家賃の値下げ交渉をする
家賃は毎月変動するものではありませんが、しかし先ほど書いたようにボディブローで利益に影響与えるものなので、次回の更新時に値下げ交渉をしてみましょう。その際には以下のような交渉をするのがベターです。
- 毎月の損益計算書と家賃の売上比率を表にしてオーナーに示し、売上に対して家賃が大きいということを伝える
- 家賃が利益を圧迫しているので、このままの場合は退去するしかないということをほのめかす
- 周囲の飲食店の賃貸物件の坪当たり家賃の相場を示す
借入金を繰り上げ返済する
以上の4点が利益を上げるために取り組むべきことですが、それ以外の費用についても見直しましょう。それぞれの費用の額は小さくても、年間に直せばそれなりの大きな額になりますし、「チリも積もれば山になる」からです。
その1つは借入金の繰り上げ返済です。借入金の利息は、通常は前月までの借入金の元本の総額に対して計算されます。したがって、資金に余裕があった場合にはまとめて返済する「繰り上げ返済」を行えば、その分利息が減って、利益貢献してくれるのです。
あるいは、今融資を受けている金融機関から、もっと利率の安い金融機関への借り換えを検討してもよいでしょう。
照明をLEDに替える
水道光熱費のうち電気代は売上比率で見ると意外に大きなものであることが多いです。ですから無駄な電気を使わないということも重要ですが、しかし接客業である以上ある程度の明るさは絶対に必要なので、無理な節電はおすすめできません。
その代わりに検討したいのが、店舗内の照明を蛍光灯や白熱電球からLEDに代えることです。LEDの価格自体は、蛍光灯や白熱電球よりもかなり高いですが、しかし使用する電気代は1/10程度に減ります。仮に買い替え費用に10万円かかっても、毎月の電気代がそれによって1万円減れば10カ月で元が取れ、それ以降は利益貢献してくれます。
ガス会社、電気会社を見直す
ガス代や電気代の費用を抜本的に見直すのであれば、供給会社を変更する方法もよいでしょう。ガスも電気も自由化されて、かつての1社独占時代よりも相当費用を抑えた価格体系の供給会社が出てきていますから、そこに変えるのです。変えるといっても単に契約を変えるだけで、機器の変更などは不要なので、仮に利益が出ていても、これは実行することをおすすめします。
宣伝、販促内容を分析して見直す
新規客獲得やリピート促進のために行っている宣伝費や販売促進費も額としては大きいものです。ですからこの見直しも行いましょう。
具体的にまず重要な点は実施している販促策の費用対効果を計算することです。つまり、かけた費用に見合うだけの売上また利益が出ているかを計算するのです。その計算方法と分析方法は以下の3つです。
- 集客のためにかけた販促費用を、その販促で獲得できた客数で割る
- すべての販促それぞれで、それによって上がった粗利を計算し、販促費で割る
- 1も2も、販促を実施するたび、または毎月の数字を出し、時系列で比較する
まず1は、新規客の集客の販促策の場合は新規客1人あたり1,000~2,000円までに抑えましょう。リピート客獲得策の場合は、その1/4~1/3が適正値です。つまり、リピート客が1人増えるのに対して250~600円の費用です。
2は、4.0前後が適正レベルです。つまりかけた販促費に対して、4倍以上の粗利が稼げることが基本です。
そして以上の数字を算出し、今挙げた適正レベルより悪い場合、あるいは3でご紹介した時系列で急に費用対効果が悪化した場合は以下の対策を実施しましょう。
- その販促策自体をやめる
- 掲載媒体をもっと費用の安いほかの会社に変更する
- 新聞折込をポスティングにするなど方法を変更する
- 折り込みチラシなら、コピーや写真を変えるなど、販促の内容を見直し効果の上がるものを工夫する
利益があっても廃業する可能性が
以上の方法で毎月利益が出るようにしっかり費用をコントロールしたり、売上が上がる策を考えたりすることが重要ですが、しかし見るべきは実は利益だけではありません。「現金」も重要なのです。
利益=現金ではない
よく勘違いしがちなのは、利益額=現金額だと思っていることです。もちろん、仕入れも現金で行い、お客様の支払いも現金で受け取っている場合は、ほぼその2つの数字は一致します。しかし仕入れが掛け売りの場合やクレジット売上がある場合は、その2つが月によってずれてきます。
たとえばクレジット売上は入金が2~3ヶ月後である場合がほとんどです。つまりその月にクレジット売上が仮に100万円あったとしても、それが現金化できるのは2~3ヶ月先のことなのです。
このどこが注意点かというと、クレジット売上が上がった月の利益は当月で計算するので損益計算書上は利益が上がりますが、しかし実際に手元には現金がない場合があるということです。ところが、仕入れは売上額と比例して増減しますから、月末払いであればその現金が必要ですし、家賃も借入金の返済も水道光熱費などの費用も、すべて月末払いです。
したがって、利益が出ているにもかかわらず、支払いができないというケースが出てくるわけです。支払いができなければ次回の仕入れができませんから、営業が続けられません。続けられないということは廃業です。これを「黒字倒産」と言います。
毎月の現金預金も計算すること
この黒字倒産を防ぐためには、毎月の利益を管理するほかに、資金繰りも計算しましょう。つまり、月末の支払いがきちんとできるだけの現金が手元にあるか、という計算です。
そのためには、資金繰り表をつけることをおすすめします。もっとも簡単な資金繰り表は、まず1か月分の利益の計画を出し、それを前月末の現金に加算して、その月末の現金残高を計算するのです。これがプラスになっていればOKです。そうなっていない場合は、借入れを新たに起こすなどの、対策を考えなければなりません。
またその資金繰り表通りに進捗しそうかどうかは、毎日のレジ締めで計算する手元の現金とその資金繰り表を突き合わせて行いましょう。
まとめ
いかがでしょうか。 以上が損益計算書の見方の基本です。もちろんもっと詳細な分析方法もありますが、まずはこの内容をしっかりできれば、問題はありません。そして合わせて以上でご紹介した経費削減の手法も実践すれば、必ず利益が上がるようになります。本文でも書いたように、商売の基本は利益を上げることです。上記を実行して、ぜひ儲かる店舗にしましょう。