飲食店で販売促進の施策を実施する場合、気になるのはそれによって何人の集客ができたのか、いくらの売上が上がったのか、顧客単価がどれだけ上がったのか、ということでしょう。しかしそれだけでは足りません。
たとえば1万円かけて1人集客できた場合と、10万円かけて5人集客できた場合は、1人しか集客できなかった1万円の販促施策の方が「効果」があったと考えるべきです。つまり投下した費用に対して、どれだけの効果があったかという見方で、これを費用対効果と言います。販促を評価し、より効果の上がる施策を実施してくためには、単なる結果ではなく、この費用対効果を把握し、分析することが非常に重要なのです。
そこでここでは、販促施策の費用対効果を把握するための基本的な計算方法と、費用対効果が上がるポイントを徹底解説します。
どれくらいの金額をかければよいか?
まず、そもそも販促にはどの程度の費用をかけてもよいのでしょうか。
販促費に含まれるものとは
最初に販促費に含まれる費用を挙げておきましょう。具体的には、
- 新規客を集客するたための、折り込みチラシなどの宣伝費用
- 集客するためにクーポン券などを発行した場合、定価から割引した分の費用
- 既存客にリピートしてもらうためのポイント制などに関わる費用
- 自店舗のホームページを作成、運用する費用
- メニューブックを製作し、印刷する費用
- 食べログなどのグルメサイトに掲載する費用
- Twitterなどで情報発信するための費用
販促費の理想的な予算は売上の3%
ではこれらの販促費は、一般的な基準ではどこまでかけてよいのでしょうか。
販促費はその飲食店の収益構造によって適正な金額が変わってきます。たとえば、原価もかからず、セルフでサービスしているので人件費もかからないファーストフード的な店舗なら、十分に販促費をかけられますが、粗利が少なくて自由になる資金が少ない場合はほとんどかけられません。その場合は、接客、料理、雰囲気で勝負して集客することと、新規客を確実にリピート化することで対応するしかありません。
ですから、適正な販促費レベルの基本は、自店舗の原価と人件費を合計したFLコストを引いた額から、自分の生活費プラスアルファの利益分と、毎月確実にかかる家賃、水道光熱費、借入金の金利などを除いて余裕資金を算出し、その中で全体のバランスを考えながら、販促費の売上比を出すのがベストなのです。
ただ、一般的な飲食店の販促費を平均すると、だいたいどの店舗でも売上の3%程度を販促費予算しているところが多いというのが事実です。ですから、新規出店したばかりで、まだ店の損益計算が安定しない場合は、売上の3%をメドに販促費をかけましょう。
メリハリを持って投資する
ただし、売上の3%と言っても毎月売上の3%ずつの販促費を使う必要はありません。むしろそのような使い方は、下手だと言えます。
上手な販促費の投資の仕方は、メリハリを持って行うことです。
たとえば2月間販促を原則として行わず、3か月目に販促費を集中的に投資すれば、3%×3か月=9%の販促費を投入できます。基本は販促費とその効果の関係は、費用をかければかけるほど、倍々ゲームでぐんぐんと上がっていくものなので、毎月1万円かけるよりは、3か月に1回3万円かけるほうが、その効果は1万円の場合の3倍よりもさらに高くなるのです。
ですから飲食店を開業したらその開業後3か月間に集中して販促費を投資して新規客を大量に獲得しましょう。そしてそれ以降の9か月間は販促を行わずに、リピート客を育てることに集中したほうが、全体の売上がアップするのです。
ただし販促費の投資競争に巻き込まれない
ただし、販促費はかければいいというものではありません。これは費用対効果の問題だけではなく、競合店との関係でも言えることです。
たとえばある新聞の折り込みチラシをまいたとして、翌週、競合店も同じような折り込みチラシをまいたとしましょう。そうすると、お客様の取り合いになりますから、それに勝とうとすると、より添付するクーポンを豪華にしたり、折り込む枚数を増やしたりするでしょう。そうすると、販促の基準が競合店との競争になり、投資合戦に発展してしまうのです。
それは本来の販促投資のあり方ではありません。広告代理店にとってはどんどん折り込んでくれる部数が増えれば、儲けものです。これではいくら販促予算があっても足りません。このような投資競争に巻き込まれないためには、常により少ない販促費用で、多くの集客ができる方法を考えることが重要です。たとえば、区役所や市役所などが配布している「封筒」に自店舗の広告を入れるなど、競合店ではしないような販促を打つこともそうです。
ROIを使った販促の費用対効果計測例
そのように投資競争に巻き込まれないで販促を行う時に1番重要なのは、冒頭で挙げた「費用対効果」という判断基準を常に持って、販促を行うことです。その費用対効果の計算方法にはいろいろとありますが、ここでは1番シンプルな手法を解説します。
その1つはROIという指標で販促結果を常に評価し、比較検討することです。
ROIとは「Return On Investment」の頭文字をとった広告用語で、直訳すれば、「投資に対するリターン」ということです。
これは具体的には以下のように計算します。たとえば、10万円をかけて、新聞折り込みチラシを実施し、100組の新規客を獲得でき、その結果売上が30万円だった場合は、以下の式なります。
30万円 ÷ 10万円 = 3.0
この場合は、10万円販促投資をしたら、その3.0倍の売上が取れた、ということを示します。これに対して、3万円の費用でフリーペーパーに出稿し、50組の新規客はとれ、その顧客を対象に大幅値引きをしたので、売上は8万円にとどまった、という場合は以下の式になります。
8万円 ÷ 3万円 = 2.67
つまりフリーペーパーは投資に対して2.67倍の売上を上げたということです。この両者を比較すると、フリーペーパーよりも新聞折込の方が「費用対効果」はよかった、ということになります。
あるいはさらに利益に注目するのであれば、売上ではなく、可能なら粗利で計算してもよいでしょう。経営は最終的にどれだけ儲けるかということなので、その方がその販促の費用対効果の実態をより正確に分析できます。
ですから販促を行った場合は、まずこのROIを出し、ほかの販促手法と比べて何が効果的なのか、ということを判断したり、あるいは同じ新聞折込でも、前月の実施分と、今月コピーを変えて実施した分では、どちらがより効果があったのか、ということを判断しましょう。
CPAを使った販促の費用対効果計測例
また費用対効果のもう1つの指標として、CPAというものがあります。CPAとは「Cost Per Action」の頭文字をとった広告用語で、直訳すれば、お客様に行動を起こさせるために、コストがいくらかかったか、ということです。
上の例でこれも解説すると、まず新聞折込は、10万円で100組の人たちが「来店」という「行動」を起こしたので、以下の式で計算します。
10万円 ÷ 100組 = 1000円
これは1組の新規客を取るために1,000円投資した、ということです。これに対して、今度はフリーペーパーの場合は、3万円の出稿で50組の新規客が獲得できたので、以下の式になります。
3万円 ÷ 50組 = 600円
となり、1組600円で集客できたと計算できます。
ですから集客で考えた場合はROIと反対に、フリーペーパーの方が費用対効果がよかった、ということになります。
ではどちらが指標としてはよりよいのか、というと、正解は両方を合わせて分析する、ということです。
まずフリーペーパーは割引をしたので集客はよかったが、その分新聞折込に対して売上貢献が少なかった、ということです。逆に、新聞折込は、割引をしなくても1組1,000円で集客できた、ということです。ここからの判断としては、たとえば、では新聞でも割引をすれば、1組600円で集客できるだろう、ただし売上は投資の2.67倍なので、それで投資がペイするかを考え、ペイするのであれば実施しよう、というようなことです。
このようにROIとCPAの両方の指標を使って、販促を分析し、より費用対効果の良いものを選択していくのが、販促費を最も効果的に活用するポイントなのです。
費用対効果を最大限に!目的を的確にして費用削減する
以上の指標はあくまで結果を分析する手法なので、販促の費用対効果自体をよくするものではありません。では販促の費用対効果を向上させるためにはどのような方法があるのでしょうか。それには以下のようなポイントがあります。
その販促費の目的が達成されているかで判断する
まずそもそも、上で挙げる指標を活用するにしても、その販促施策が何のために実施されたのか、ということを常に念頭に評価していく必要があります。
その目的には、新規客獲得、リピート率アップ、顧客単価アップ、来店頻度向上、特定メニューのオーダー数増加など、多様なことが考えられるので、その目的に対して費用対効果が高いのか低いのか、という点に着目するのです。
そこでたとえば、新規客獲得のために行った販促なのに、新規客は取れないで、返って顧客単価が上がった、という場合は、結果オーライではなく、その販促は失敗だったという判断になります。なぜかというと、目的と手段はセットだからです。つまり、売上を上げたい場合はこの手法、顧客単価を上げたいときにはこの手法、というように、自分の中に販促手段の引き出しが増えていくことが重要なのです。ですから、違った目的に対して効果が上がっても、それは別の目的の引き出しにはなっても、目指す目的に引き出しにはならないのです。
費用を最大限効率化するためのポイント
それを前提に、費用対効果を最大限上げるためのポイントを解説しましょう。それは具体的には以下の点です。
スモールスタート
まず1つの販促手法はいきなり大きな予算で行わず、小さな予算でできる媒体から行いましょう。同じ新聞折込でも、最初にそのチラシを5000枚だけ撒いて結果を確認し、効果が出るようであれば、それを5万枚に増やすのです。そうすれば、いきなり5万枚の販促投資をしてそれが失敗に終わり、費用的に大打撃をこうむる、ということが防げます。
仮説検証主義
また販促はすべて「仮説実証主義」で行いましょう。これは、最初に「この手法でやれば売上が上がるはずだ」などを仮説として持って、実行後に実績をとり、その仮説が正しかったか判断し、正しければ続ける、間違っていれば修正する、ということを繰り返す手法です。
ですから実績のとれない販促を行うのはNGです。たとえばお客様満足度を上げるための販促、というようなものは、満足度などは非常に抽象的なものなので実績が取れません。したがって、仮によいアイデアであってもそれを実行するのはNGということです。
あるいは新聞折込で集客する場合でも、ほかのフリーで来店するお客様と、チラシを見て来店したお客様を区別してカウントしなければ実行する意味はありません。ですから、チラシに「このチラシ持参の方だけ、割引」などと表示し、会計でチラシを回収してその数で新聞折込で集客できた人の数をカウントするのです。
またそのような方法で結果が取れたら、後回しにせずにその日の閉店後、あるいは翌日の開店前に、すぐ費用対効果を計算しましょう。
ABテスト
費用対効果を上げるには、同じ新聞折込の場合でも、チラシの内容によって結果が左右されるので、より効果の上がる内容にしていく必要があります。たとえば、チラシに入れるキャンペーンは、割引がよいのか、デザート1品無料がよいのか、というようなことです。
その場合はABテストを行いましょう。これは、仮にチラシを5000枚折り込むとしたら、その中の2500枚は割引(=A)、残りの2500枚はデザート(=B)にして、両方同時に折り込む方法です。これをすれば全く同じ条件で、来店数をカウントすればどちらが費用対効果がよいのか、一目瞭然です。
通信販売では普通の方法なので、どの媒体社でも対応してくれるはずです。また当たり前ですが、回収したチラシを全く同じものにしてしまうと、AとBのどちらが多いのかわかりませんから、回収するものに区別できるマークなどを必ずつけておきましょう。
トライアンドエラー
上でも少し触れましたが、ある販促手法や媒体が最初から大成功することは通常あり得ません。成功に至るまでには何度もテストしてみながら、徐々に費用対効果を上げていくのが、遠いようで実は最も成功への近道の方法です。ですから、トライして、うまくいかなければまた修正して再度トライする、ということを繰り返しましょう。
またその修正には、いきなり全部を変える、ということは望ましくありません。たとえばチラシであれば、その要素はデザイン、コピー、割引などのメリット、など多様にあり、どれが本当に集客に効果があったのかわかりません。ですから、トライして、再度トライする場合には、デザイン、コピー、メリットなどの全てをいきなり変えてしまうのではなく、1か所だけ、たとえばコピーだけを変更しましょう。
それで費用対効果が上がれば、コピーはこれでよかったのだ、ということが判断できます。そして次のトライではデザインを少し変えてみるのです。そのようにして要素の1つ1つを検証し、ベストのものを探り当てていくのが結果的には1番効率的なやり方です。
SNSを活用したテストマーケティング
またそのトライアンドエラーとして、SNSを利用してもよいでしょう。新聞折込などはどれだけ少ない部数で実施しても費用がかかります。しかしSNSでの発信は基本的に無料です。
ですからSNSで何度もトライを行って、最適なデザイン、最適なコピー、最適なメリットを掴んでいき、それらが確定した段階で今度は新聞折込などに、その判断結果をすべて反映させて実行するのです。
そうすれば、無駄な投資が極力抑えられます。
費用対効果についての理解をしっかりと
以上のように費用対効果の高い販促、つまり少ない投資で大きな効果の得られる販促方法を見つけるのは、非常に地道な作業であり、かつ数字ですべてを判断していく明確な作業です。
そのステップを確実に踏むためには、上で解説した費用対効果の考え方をしっかり理解しましょう。そして仮に1つのトライが失敗しても、「この方法はこの目的のためにはふさわしくない」というように、自分の引き出しを増やしていければ、いずれは最高の費用対効果が上がる販促を見つけることができるでしょう。
まとめ
いかがですか。
効果の上がる販促を行うためにはアイデアも必要ですが、それは一種の天才しか思いつきません。しかし一般の人でも効果の上がる販促手法を編み出すことができる方法が、以上で挙げた費用対効果という考え方を基本にした、トライアンドエラーであり、仮説検証です。
ですので以上の手法をしっかり実行して、販促名人になり、効果的な販促によって繁盛店を目指しましょう。