飲食店を開きたいときにまず考えるのは、どのような店にしてどのような料理を出すということでしょうが、しかし本当に出店すると決まった時に1番も問題になるのは、飲食店を始める際にかかる費用がどのくらい必要なのか、という点です。やはり先立つものはお金だからです。ある程度のお金がないとどのような素晴らしい料理のアイデアや店のコンセプトも実現できません。そこでここでは、飲食店の開業に必要な費用を具体的にご紹介します。
まずはなににお金がかかるか把握しよう
最初に、飲食店を始める際にかかる費用の全貌を把握しましょう。それは以下のようなものです。
物件取得費用
何はともあれ必要な費用は飲食店の物件取得に関するものです。具体的には以下の通りです。
保証金
地域によっては敷金とも言いますが内容は同じものです。これは、退去時に入居した状態に戻すためにあらかじめ入居時に家主に預けておく費用で、使用した残りは退去時には返ってくるお金です。後で返ってくるとは言え、開業時の現金の用意ととしては必要です。相場は賃料の6~12か月分です。
礼金
礼金は契約時に家主、オーナーに渡すお金で、返金されません。主に関東地方の習慣で、関西ではほとんどもらう習慣はありません。関東でも最近は礼金0円の物件が増えてきました。払う場合は賃料の1~2か月分が相場です。
仲介手数料
不動産仲介業者に支払う手数料です。賃料の1か月分が相場です。
造作譲渡費
前の借主の使用していた店舗の内装や什器備品、あるいは厨房機器や設備をそのまま使う場合を「居ぬき」と言い、その分内装費用などが少なくて済みますが、しかしただでその内装、什器備品、厨房機器、設備をくれるということはほとんどありません。その資産としての残存価格で前の借主にその譲渡代金を支払うのが普通です。それを造作譲渡費といいます。
譲渡費用のベースになる資産価格は、資産としての残存価格が基本になるので、その内装や什器の状態、使用年数などによって上下します。
前家賃
入居前でもその物件を契約するとその時点から家賃が発生します。この契約時から入居までの間の分として支払う家賃を前家賃と言います。
店舗投資費用
物件を取得したら今度はそれを自分の思うような店舗の内装と外装にする工事のための費用が必要になります。
内装、外装工事費
まず大きな費用が内装、外装の工事費用です。ただしこれも上で書いた「居抜き」の場合は安くなりますし、入居時に内装が何もない、がらんどうの建物の躯体が出ている「スケルトン」という状態の場合は比較的大きな費用がかかります。
さらにスケルトンの場合でも、内装に凝ればなのかなりの内装費になりますし、シンプルにすれば節約もできます。だいたい、一般的な費用としては、居酒屋などある程度の内装を作りこむ場合、坪当たり30万~35万円です。これがシンプルなカフェなどの場合は坪当たり25万円前後になります。
そのほかの必要費用
そのほか店舗のために必要な費用は、厨房機器費用、椅子、テーブル、食器などの什器備品費用、開業時の折り込みチラシなどの販売促進費用です。
そして忘れてはならないのが、開業時に必要な仕入れなどをする費用と、そしてすぐ満席になって利益が生まれるということはほとんどありませんから、店が軌道に乗るまでの間に、赤字分を補填するお金です。これ運転資金と言います。
初期投資費用1,000万円は見ておこう
以上のような飲食店開業に必要なさまざまな費用を合計すると、初期投資費として必要な費用は、「坪当たり50~80万円 × 坪数」となります。この中には敷金、礼金、保証金は含みません。
加えて、上で書いたように、居ぬき物件かスケルトン物件か、内装に凝るのかどうするのか、店の業態は何なのか、厨房機器は機能の高いものが必要なのか、席数をゆったりするのか詰めるのか、などによって異なります。
したがって、この坪当たり50~80万はだいたいのメドとして考え、実際には店を出す場合は、上の項目に沿って詳細に計算しましょう。
ただ、飲食店を開く計画を考える場合、この坪当たり50~80万は一応の目安になります。この場合、一般的な20坪の飲食店を開業するのであれば、50万円 × 20坪 = 1,000万円 ですから最低でも飲食店を開こうと思ったら、最初に1,000万円は用意する必要があるということになります。
最低必要自己資金
その1,000万円をどのように調達するのかについては以下でも解説しますが、そのうちの何割かは自己資金で用意するのが一般的です。その割合は、平均すると1,000万円のうち200万~300万円です。
これは人ぞれぞれの考え方ですが、一般的な価値観では、自己資金が多ければ、調達費用のうちの借入金の利息が少なくて済み、また精神的にも負担が少なくなるので、メリットが大きいです。
また借入金などの融資が受ける場合でも、自己資金を申告する必要がありますが、その自己資金が多ければ多いほど、金融機関が考える、こちらの飲食店の成功確率が上がるので、融資を受けやすくなります。その意味合いからも、できるだけ多めの自己資金を用意しましょう。
資金調達方法
自己資金以外の費用は、ほかのところから融通をする、つまり資金調達することになります。ただし何もその全額が金融機関からの借入金だとは限りません。資金調達には以下のようないろいろな方法があります。
家族からの資金を募る
1つは家族や親戚から資金を募ることです。これは金融機関にとっては自己資金と同じ扱いになるので、この家族、親戚からの調達費用が多ければ多いほど、融資も受けやすくなります。
ただし、いくら親しい間柄だとは言え、お金のやり取りはあとあとトラブルになる可能性もありますから、借入れなのか、譲渡なのか、ということを明確にして、そのことを文書で残し、相手の印鑑かサインをもらいましょう。また、借入れの場合は、さらに借用証や金銭貸借契約書を作成しましょう。
友人からの資金を募る
自分を応援してくれるネットワークや人脈が多い人は、友人からも出資を募れます。ただし、この友人からの資金は、金融機関にとっては自己資金としては見なされません。
この場合も、家族からの調達資金と同様に、借入れか譲渡かを明確にして文書に残し、借入れの場合は金銭貸借契約書を必ず作成しましょう。
日本政策金融公庫の融資制度で調達する
家族、親戚、友人などで調達できなかった部分の費用は、基本的に金融機関から資金調達を行うことになります。その中でも必ず金融機関の候補に入れておきたいのは日本政策金融公庫です。日本政策金融公庫からの借入金は、利息も比較的安く、場合によっては担保も不要なので、借入れを考える場合は必ず打診、相談しましょう。
その日本政策金融公庫からの借入金の種類は以下の通りです。
新創業融資制度
開業予定、あるいは開業直後の経営者に無担保、無保証で融資する制度です。融資限度の総額は3,000万円で、そのうち運転資金に充当できる金額は1,00万円です。
中小企業経営強力化資金
これも内容はほぼ上記の「新創業融資制度」と同様です。ただし融資限度総額が7,200万円、運転資金が4,800円なので大型の店舗を考えているのであれば、この利用が必須です。ただし、融資申し込みに必要な書類は、金融に詳しくなければ作成が難しいので、この融資を受ける場合は税理士などの専門家に相談しましょう。
助成金や補助金を利用する
また金融機関からの融資ではなく、国や自治体方の助成金や補助金を獲得するのもおすすめの方法です。
これは簡単に言って、条件を満たせば無償でもらえるお金なので、当然返済は不要です。ですから、これも資金調達の際には必ずトライしましょう。
その助成金や補助金は、国や自治体によって多数あるので、ここでは網羅できませんから、検討の際にはそれぞれのサイトで確認しましょう。その中で飲食店が活用できる主な助成金、補助金は以下の通りです。
創業補助金
これは中小企業庁が運営している補助金で、補助の対象となる費用のうち1/2を上限に、50万~200万円を補助してくれる制度です。
小規模事業者持続化補助金
これは日本商工会議所の運営する補助金です。事業をすでに開始している経営者に対して、費用の2/3までの50万円を上限に補助をしてくれる制度です。
キャリアアップ助成金
これは厚生労働省が運営する助成金で、雇用している従業員の労働条件を見直した場合に受け取れるものです。内容は8つのコースがあり、従業員1人当たり最大72万円の助成金が受けとれる制度です。その8コースにどのようなものがあるのかは、以下の厚生労働省のサイトを確認してください。
キャリアアップ助成金
トライアル雇用奨励金
これも厚生労働省の助成金で、ハローワークなどから紹介を受けた人を雇用した場合、雇用者1人当たり月額4万円の補助が最大3カ月間受けられるものです。ただし、原則として3か月の雇用義務や、1週間の所定労働時間の上限などの条件があります。
地方銀行、信用金庫の制度融資を利用する
以上の資金で不足する場合は、地方銀行、信用金庫の制度融資を利用することになります。いわゆる大手のメガバンクは飲食店にはあまり融資してくれませんから、よほどの場合でなければ考えないようにしましょう。その地方銀行、信用金庫の融資の中でも利用したいのは「信用保証協会付きの融資」別名「制度融資」というものです。
信用保証協会とは中小企業などの会社を支援、育成する公的機関です。この機関が、金融機関から融資を受ける場合に、保証人になってくれる制度があり、その制度を利用して、地方自治体の資金を金融機関を通して融資を受けるものが「信用保証協会付きの融資」です。ただし審査に時間がかかるので、開業時の資金調達に間に合わない可能性が高いですから、開業後の必要費用に充当させるものとして考えましょう。
これ以外にも地方銀行、信用金庫には小規模の経営者に対する融資制度がいろいろとありますから、まずは1度相談してみましょう。また1つの金融機関で融資が通らなくても、ほかでは通る場合もあり、あるいは有利な条件で融資してくれる場合もあるので、複数の金融機関に打診するのが大切です。
ポイント
この飲食店を始める際にかかる費用を考える場合、大切なポイントがあります。それは以下の通りです。
自己資金を十分に用意する
日本政策金融公庫の調査によれば、飲食店の経営者が開業後に後悔したことは1位が「自己資金が不足していた」です。全体の26.8%でした。これに次ぐものは「従業員の教育」(25.9%)、「ターゲットの明確化」(23.0%)です。
(引用元:日本政策金融公庫 https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/sougyoutebiki_food_1405.pdf)
自己資金の不足とは、つまり開業資金、運転資金をもっと十分に用意すればよかった、ということです。ですから、全額金融機関から融資を受けるのではなく、できるだけ貯金をして自己資金を用意したうえで、飲食店の開業準備に入りましょう。
運転資金は6か月分は準備する
運転資金の不足は即廃業につながる
飲食店開業のコンサルタントなどの中には「飲食店は日銭が入る商売だから、運転資金は1か月で十分」という人がいますが、実際には運転資金は1か月分では到底足りません。また飲食店は新規開業後50%が1年以内に廃業していますが、そのほとんどの理由は運転資金が足りなくなったことです。
飲食店を開店させると、最初は開店景気で知り合いや近隣住民が珍しがって来店し、繁盛しますが、しかしそれが一巡すると途端に閑散とするのが常です。そして新規客のうち何割かがリピート客になり、そのリピート客が増えてきて、やっと店が黒字化して軌道に乗るのです。その軌道に乗る間の赤字は準備した運転資金で賄わないと、廃業の憂き目にあってしまいます。
ですから、ある程度リピート客が蓄積されるまで持ちこたえられるだけの運転資金を用意しましょう。
最低6か月分の運転資金が必要
では具体的に何か月分の運転資金が必要かというと以下の通りです。
日本政策金融公庫の調査では、開業後、軌道に乗るまでの期間が6か月以上かかっている飲食店が64%以上でした。
(引用元:日本政策金融公庫 https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/sougyoutebiki_food_1405.pdf)
したがって目安としては、6か月間、仮に売上が予定の半分でも耐えられるだけの運転資金を用意したほうがよいということです。これは売上が予定の50%でもあるという想定で、実際にはさらにそれよりも売上が低い場合も十分にあり得ます。したがって、「最低」6か月と考えましょう。
運転資金の計算方法
では運転資金が1か月分でいくら必要か、ということの計算方法を簡単に解説します。
まず必要なのが売上予測です。これは以下の式で計算しましょう。
売上=座席数×埋まる席の割合(満席率)×1つのテーブルに何回来店客がつくか(回転率)×客単価
これをランチとディナーの両方で計算して、その2つを合計します。
次にその売上に対する経費を計算します。
経費は主に
- 平均の原価、仕入れ代金(売上に自店舗の平均原価率をかける。一般的には30%~35%)
- 借りる物件の賃借料
- 水道光熱費
- 従業員の給料
- 食器やお手拭きなどの什器備品費、消耗品費
- クレジット手数料(総客数のうち何割がクレジットで支払うかを想定し、その売上に契約しているクレジット会社の手数料をかける)
- 販売促進、宣伝費、メニュー作成費(販売促進は食べログやぐるなびの有料費用は必ず入れる)
- 融資資金の利息
です。
そのうえで
売上-経費=利益
と計算すると、利益が出ます。これが「予定通りの売上の場合」に上がる利益です。
しかし、運転資金を考える場合は、さらにこの売上が予定通りいかない場合で考えなければなりませんから、この売上が50%だった場合も計算します。その時に黒字になればよいですが、ほとんど場合赤字になります。その赤字分が、1か月に必要な運転資金です。
その1か月の赤字分を6倍した金額を、開業時には運転資金として確保しましょう。
まとめ
いかがですか。
どのようなビジネスでも、その理想やコンセプトは大事ですが、同時に大切なのが利益であり、資金の準備です。どれだけ来店したお客様が満足していても、手元に資金が無くなれば、明日の仕込みができないので、即廃業になってしまいます。
ですから以上の解説を参考に、飲食店を始める際には必要十分な費用を確保するようにしましょう。