飲食店を開業しようという時にぜひこだわっていただきたいのがその店の立地です。なぜかというと、飲食店の成功するポイントのおそらく50%以上はその立地条件がよいかどうかにかかっているからです。一般的に見た時の条件がよくない立地の場合で成功するのも不可能ではないですが、相当の工夫と努力が必要です。ではその飲食店の好立地条件とはどういうものなのでしょうか。ここではその点について解説して行きます。
出店する業態によって異なる立地条件
立地を考えるうえで難しいのは、その業態によって、どのような条件を満たしているものが好立地なのか、ということが変わってくる点です。
業態によって立地条件は変わる
具体的には以下のようなことです。
ふらりと昼時に入ってしまうラーメン店や、丼ものなどの、個人客をメインターゲットにした、顧客単価よりも回転率で稼ぎ出す飲食店の場合、日中に人通りが多く、入りやすい路面店というのが成功するための立地の必須条件になります。人通りが多ければ、ランチタイムなどには放っておいても短時間のうちに多くの来店客が見込め、集客人数で売上を稼ぎ出すことができるからです。
しかしそのような立地の物件は賃貸料が高いので、売上が多くても利益がそれに応じて多くなるとは限りません。
その点、回転率ではなく、来店客の滞在時間を延ばし、それによって注文数を増やして顧客単価を上げることで売上を増やしていく店の場合は、立地にはそこまでこだわらなくても勝負できます。
むしろ、一般的に言う好立地の駅前の路面店ではなくても、少し離れたところの2階や3階などの空中店舗でも、同じ賃借料でも広々とした空間が確保できれば、ゆったりとした席づくりが可能なので、来店客の居心地の良さが向上し、狙っていたように滞在時間が長くなり、顧客単価の高い店を実現できます。特にカフェやダイニングバーなどの場合はこの方が稼げる可能性は高いでしょう。
目指す収益モデルで立地条件は変わる
ですから、飲食店を出店するうえでは、まず自分の目指す店の収益モデルをどのように考えるのかを決めないと、どのような立地が好条件なのか判断ができない、ということです。
少し重複しますが、
- 回転率重視なら人通りが多い路面店
- 客単価重視なら駅前から離れてもゆったりした店舗
- 常連客重視なら隠れ家的裏道立地の方が特別感がある
などです。
ターゲットによって立地条件は変わる
また収益モデルを考えるということは、自店舗のターゲットを考えることとほぼイコールになります。なぜかというと、回転率重視の店の場合は、短時間で食べてすぐに店を出ていく業態ですから、ランチ重視の簡単な食事を出す店になり、したがってターゲットはランチに外食をする層、すなわちサラリーマンやOL狙うことになります。
一方、顧客単価を上げて勝負をするのであれば、郊外で広い立地を取るか、駅近でも裏通りの空中店舗を取るか、ということになります。前者の場合ターゲットは、車などで週末に食事をしに来るファミリー層がターゲットですし、後者であれば比較的若年層の独身者や女性という層がターゲットになります。
逆に言えばターゲットを決めることによって、その人たちが来やすい立地が好条件立地になるということです。
立地の重要度
なぜここまで立地にこだわるかというと、立地を考えることが、移動店舗ではない飲食店においてはマーケティングに基本になるからです。マーケティングとは、自分の狙っているターゲットのニーズを把握し、それに合った商品やサービスを提供して、ターゲットの方から積極的に来店をしてくることを目指す戦略です。ですからターゲットのニーズに密接な立地条件というものが大きな要素になるのです。
具体的に言えば、「いい立地」とは、「自店舗の特性と、その立地の持つ商圏エリアの飲食需要との相性がよいところ」ということです。ですから実は駅前立地、路面店立地が必ずしもベストではないのです。要は相性よければすべて好立地になるわけです。いかに駅前で通行量が多い立地に出店したとして、その店の内容が食べることに時間のかかるコース料理主体の店であれば、ランチ需要は取れないので、必ずしこその立地が好条件ではなくなる、ということです。
立地選びのポイント
以上が立地と自店舗の特性の関連という意味での立地の基本的な考え方です。ではそれを前提にもう少し立地を考えるうえでは、どういう要素を見ていけばよいのか解説しましょう。
家賃(坪単価)
まず家賃はなんと言っても大きな要素です。いくら自店舗にとって特性と相性のいい商圏にある好立地でも、家賃が高ければ売上が上がっても利益はその分経費が掛かるので増えません。ビジネスの目的は売上を上げることではなく、利益を上げることですから、これでは成功はおぼつきません。
具体的には、駅前路面店の場合は、立地がよいように見える代わりに家賃が非常に高いですし、駅から離れた空中店舗は立地がよくないように見えても、家賃が安ければ利益が出て、結果的には好立地だった、ということになるのです。
特に家賃は固定費です。売上がよかろうと悪かろうと、客足の鈍い2月だろうと繁忙期の年末だろうと同じ額がかかり、なおかつ自分の努力でコスト削減ができるものではありません。したがって、立地を選ぶ場合には、その家賃をしっかり考え、自店舗の収益モデルの中でそれは売上を上げることに貢献して利益を出してくれる要素になるのか、コストを抑えて利益を出してくれる要素になるのか、という計算をしっかりする必要があります。
人通り
2つ目は自店舗前の人通りです。これもランチのようにフリー客がほぼ100%の店であれば、この要素は非常に重要になります。一方で予約中心の店であれば、そこまで大きな要因にはなりません。
前者の場合、なぜ重要なのかといえば、人通りが多ければ自店舗の存在を常日頃から認知させることができて、飲食店の選択肢の1つに自店舗が食い込めるということと、そして入りやすいので時間を惜しむランチ客に対して利便性を提供できるため、結果的に集客力の高い飲食店を実現できるからです。その場合は、ランチタイムの2時間で2回転、3回転と回せるため、売上のほとんどをこの短時間で上げることができます。そうであれば、ランチタイム以外は閉めてしまえば人件費も光熱費もかからないので、そのコスト削減ができ、結果的に利益が生まれます。
周辺に来る人、周辺施設の属性
ここまで触れてきたように、立地とターゲットの関係は非常に深いです。
オフィス街立地であれば、昼のターゲットはOLやサラリーマン全般のランチ需要ですので、目立って入りやすい店舗であれば、多少狭くて居心地が悪くても集客が見込めます。一方で終業後のディナー需要であれば1つは、サラリーマンのアフター5の飲み会需要か、1人暮らしサラリーマンのディナー需要を取りに行く、ということになります。前者の場合は、メニューも含め、顧客単価が2000円前後で、とにかくやすく飲めて騒げる、という店になるでしょうし、後者であればランチから少し高い金額設定で、静かに食べられる内容になるでしょう。
このように、立地とターゲット、そしてそのターゲットにどのような利便性やサービスを提供するか、ということは非常に密接な関係にあるのです。
飲食需要がどれだけかを見極める
また一見立地がよいように見えて実はそうではなかった、というケースもあります。たとえばオフィス街の路面店立地に出店して、これであればランチ需要を取れるだろうと思っていても、実はほとんどのオフィスにはビル内に社員食堂があった、という場合は目論見ほど売上が取れません。このように、そのエリアに実際にどの程度の飲食需要があるのか、ということをしっかり見極めて、飲食需要が多いところであれば好立地だということが言えるのです。
検討中の立地は念入りに事前調査しておこう
したがって、よいと思える物件を見つけた場合、即決しないで、以上のような条件を勘案して、よく検討することが重要です。そしてその検討をする上でもネットのデータなどでは検討材料になる情報は出てきませんから、自分の足で検討材料を見つけるしかありません。具体的には、昼と夜に時間を分けて物件から半径1km程度の範囲を自分の足で歩き、どのような人が通っているのか、どのようなニーズがありそうなのか、飲食需要は高いのか、ということを見極めましょう。その時には以下のような観点が必要です。
1つは重複しますが、飲食需要があるのかという点です。これは近隣に何軒飲食店がるのかで判断できます。飲食店が多くて、なおかつ入れ替わりが激しくなければ飲食需要は多いですし、立地がよさそうに見えても飲食店が少ない場合、あるいは飲食店があっても次々に代替わりしている場合は、実は飲食需要はそれほど多くないということがわかります。
2つ目は業態としてのニーズがあるのかという点です。自分の出店しようとしている業態と同様の飲食店がすでに複数出ている立地であれば、その業態へのニーズはあるでしょう。しかしそのような業態がない場合は、その業態への飲食需要がないということです。例えば居酒屋ばかりのエリアであれば、そこに高級なコース中心のフレンチレストランを開業してもうまくいかない可能性が高い、ということです。
立地の種類
では立地にはどのような種類とタイプがあるのでしょうか。またそれらはどのような飲食需要を持っているのでしょうか。
駅前
駅の近隣は徒歩客が多いので、アルコールの売上は多くなる傾向があります。そして利便性がよく人通りも多いので、フリー客が取れ、大きな売上が確保できる可能性があります。ただし家賃や保証金が高いことが圧倒的に多いので、よく収益計画を立てた上で利益が出そうなら出店する、という判断をしましょう。
ビジネス街
ビジネス街には2つの飲食需要があります。1つはランチ、1つはアフター5の飲み会ニーズです。サラリーマンの財布の具合をよく考えた価格設定をすれば、大きな売上を出すことも可能です。ただし競合が多いため、目玉メニューを作ったり販売促進をしっかり行ったり、顧客の囲い込み戦略を実施するなどの差別化が必要です。ファミリー客は非常に少ないので、週末は休業日にしてもよいでしょう。
繁華街
繁華街は週末が売上の稼ぎ時です。その場合ターゲットは、ファミリー客か、あるいは若年層のショッピング客やデート客のどちらかになります。どちらが多いかによって、店の内容は変わります。ただし駅前立地同様、家賃や保証金が高いので、出店をする上では収益計画をしっかり立てて判断しましょう。
商店街
地元の商店街の場合は、メインターゲットは地元住民かあるいは中高年層です。しかし商店街によって、その客層はかなり異なるので、出店するのであれば昼と夜の時間帯にしっかり足でリサーチし、どのような客層が多く、どのような飲食需要があるのか見極めましょう。特にシャッター街のように閉店した店が多い古い商店街の場合は、いくら周辺の人口が多くても外食をする購買力がなくなっている可能性が高いので、苦戦は必至です。ただしそういうところには誰も出店しないので、競合が少なく、地元住民の多くを獲得する地域一番店を目指せば成功することも可能でしょう。
百貨店、商業施設内
この場合は、その百貨店や商業施設が若年層狙いかファミリー層狙いかによって、どの飲食店が成功するかが決まってきます。特に最近、飲食業界で1人勝ちなのがフードコートですが、ここであればワンコインで食べられ、子供や女性が好きなジャンルの飲食でなければ成功しません。
郊外、丘陵地
基本は来店客は車移動なので駐車場が必要です。その駐車場に何台停まれるかで、ほぼ売り上げは決まってしまいますので、店舗規模との駐車場台数はどうなのかという点に留意しましょう。
裏通り
裏通りは常連客狙いや予約客中心の店であれば、家賃も安いため十分に売上と利益が確保できる可能性があります。しかし常連客を作ったり、予約を取ったりするためには、より一層の差別化や、ターゲットニーズを見極めた自店舗の特性の作り方が必要なので、収益計画だけではなく、メニュー戦略や内装をどうするかということをしっかり考えましょう。
高級住宅地
高級住宅街はなんと言っても近隣主婦のランチ需要が中心です。ゆったりとした店内で、数品のコースのランチを用意すれば、高単価が可能です。ただし、その場合でも、その住宅地の主要居住層の年齢によって、子供対応が必要な場合もあるのでその点をしっかり考えましょう。
雇用促進住宅、市営住宅近隣
このような住宅に住む住民はさほど経済的余裕がありません。したがって飲食需要を高くありません。もしも出店するのであれば週末のランチにお得な価格帯で攻めるか、夜のリーズナブルプライスの1人向け、あるいは大人のファミリー向けのディナーを提供するかののどちらかの戦略になるでしょう。
まとめ
いかがですか。
飲食店の立地は以上で述べたように、簡単に駅前路面店だからよい、というものではありません。逆に言えば、駅から遠い空中店舗というような2等立地でも、店の内容によっては十分に戦うことができ、家賃が安い分、多くの利益が確保できる可能性もあるのです。
ですから、以上で解説した内容をよく踏まえて、自分の開業したい飲食店のコンセプトな業態によってどの立地が好条件なのか、ということを判断して行きましょう。